シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「まさか、羅侯(ラゴウ)や妖魔の手から人々を守ることを正義として栄えてきた皇城に、羅侯(ラゴウ)が降臨する時期もわかっていながら、対策となる多少の犠牲は悪徳で、人々がたくさん死ぬことこそが美徳なんて言わないよね?」
玲様は唇を噛んでいた。
「ひとりでも多くの人間を救うために皇城は動いている。羅侯(ラゴウ)から人間を守るのが皇城の正義であり、使命だ」
天井を振り仰ぎ、意気揚々と語る周涅の表情は見えない。
ああ、この心のもやもや感をどうすればいいだろう。
糾弾出来るだけの、攻撃材料が見つからないのだ。
「ねえ……」
芹霞さんが口を開いた。
「あたしは羅侯(ラゴウ)だの妖魔だの聞かされても、ファンタジー世界としか感じられないけれど、人の命なんだよ? 多い少ないなんて関係ない。大事の前の小事なんて……割り切って豪語できるのはおかしくない?」
淀みない、黒い瞳を周涅に向けて。
「皇城が守ろうとするあたし達庶民に、皇城は凄いんだって自慢したいのなら、"多少の犠牲"も出さずに大勢を救ってから自慢したら?」
ひくりと、周涅の眉根が不快に寄る。
「だけど、どんな犠牲を出しても、大切な人を守りたい気持ちはわかる」
芹霞さんは紫茉さんを横から抱きしめて、言った。
「紫茉ちゃんを生かしてくれてありがとう」
「芹霞……」
七瀬紫茉が涙で濡れた顔をあげて、芹霞さんを見る。
「素直になったら、お兄サン」
そんな言葉が続いて、私はぎょっとしてしまった。
「皇城関係なく、紫茉ちゃんを助けるために動いたら? 自分の意思で」
歪んでいく、周涅の顔。
「与えられた選択肢の中から選ぶのではなく、自分で選択肢を作ったら? 自分は凄いんだって自慢するくらいだもの、それくらいの力はあるんでしょう? あたしから言わせれば……皇城がなによ、紫堂がなによ。そんなのにしがみつくから、紫茉ちゃんがこんな血塗れになって泣く羽目になるんじゃない」
険しくなる顔をものともせず、芹霞さんは言い放つ。
芹霞さんの目が完全に据わっている。
……キレてしまったらしい。