シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「僕の鉄の胡桃の"ポイポイ"は完璧だよ。あとは僕の奥義だけだ」
「……おう」
「なんだよ、最後だというのに覇気がないじゃないか」
チビリスが、逆さまの顔で俺の顔を覗き込んでくる。
憎たらしい程可愛い顔。
鳶色の目がくりくり動いている。
ああ、デコピンしてえ……。
むしっ。
「イテッ。お前、俺の前髪を毟るなよ。その無理な体勢やめればいいじゃねえか」
このチビは、ぷるぷる震える小さな手で、逆さまの体を保持するために必死に俺の毛を掴み始めたらしい。多分両手で。
「禿げるじゃねえか!!」
「鉄の胡桃は重いんだよ」
「…鉄の胡桃って、お前の体内にあるのか?」
「………………企業秘密だね」
ああ、くそ。そのわざとらしいほど長い間が、気になってくる。
そしてチビは俺の頭上に戻り、
「おい、大丈夫か、お前……」
ぜえぜえとした息遣いを整えながら、声高らかに叫ぶ。
「行くよ~、皆~」
場に響き渡る玲の声。
目を瞑れば玲そのものの声なのに、いるのは俺の頭上に乗る小リス。
大丈夫。
きっと上手くいく。
チビの声に反応するように、突如スクリーンの猛威がおさまったのも気にすることはねえ。
たまたま、だ。
小小々猿は、俺達を裏切ることなんかしねえ。
あいつは、いい猿だ。
そう信じたい。
「サンダーボルト~」
辺りが突然暗くなり、遠くには稲光が見える。
ゴロゴロと雷鳴が轟けば、地面に半分埋まりかけている鉄の胡桃が青白い光を放ち始めた。
「アタ~~~ッッック!!!!」
俺の頭上から耳をつんざくほどの音をたてて太い雷土が落ちてきて、それが俺の頭に当たる寸前に方向を変えた。
それはそのまま地面に向かって落ち、凄まじい早さで鉄の胡桃を辿るようにして――。
「おや……?」
鉄の胡桃が結んだ雷光が、バリバリとした音が……消えてしまった。
ふっと。