シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「俺達は動いちゃいねえ。動いているのは地面の方だ。俺達も移動していれば、俺達にとって胡桃や石碑の位置は延々と変わらねえから、俺の耳は常に同じ位置から途切れた音は拾うはずだろう? だけど、毎回変わっている」
俺の耳が真実だと信じるのなら――。
どう考えても、それしか説明つかねえんだ。
「ええええ!? 地面の方が回転!? じゃあ僕達は? 僕達は移動しなくても、それらだけが移動してるの? え、えええ??? 何処から動いているの!?」
「細かいことは気にするな。考えたらキリがねえ」
「なんで、なんで!? スクリーンはどうして僕達を騙しているの!?」
「俺達を内包する代わり映えのねえスクリーンが、俺達の方向感覚を曖昧にさせ、世界は静止しているものだという固定観念を増長させている…のかもしれねえ。これ以上の質問は無理。それ以上は俺の頭がパンクする!!」
矢継ぎ早な質問が飛んできそうな気配に、俺は防御線を引いた。
部分部分がきっちりと説明はつかねぇけれど、この世界自体が何でもありだし、今はそこまでの真実解明をしなくてもいいはずだ。
「地面の方が動いているなんて……」
チビは途方に暮れたような顔を空や地面に向けて、本当に動いているのかどうかを確かめているようだ。
「ああ。いつから動き出したのかはわからねえが、体がそれに慣れちまっていたから、違和感を感じなかったんだと思っている」
チビの奥義発動の度に途切れた音が違うのなら、地面の回転も頻繁だ。
だとすれば、俺が放り投げたチビが空に舞い、俺がそれが点となるのを見守って、地面から目を離していた瞬間が濃厚だ。
「地面が……」
見ている分には哀愁漂う小さな背中だ。
引き籠りが外に出て見たはいいけど、どちらにどう歩いていいのか判らずにいるような雰囲気…。
俺、相棒を間違えてしまったか?
そんな不安も頭に過ぎったけれど。
「考えてもわからないから、とにかくできることをやるしかないね。僕は常に進化し続ける、出来るオスだしね! これもまた、発想の転換さ!」
くるりとこちらを向いて、チビは笑った。
理屈より本能。
考えるよりまず行動。
本能の赴くままに破天荒に切り抜けてきたチビは、やはり俺にはお似合いの相棒なのかもしれねえ。
発想の転換――。
俺はこの世界に来た時、箱状の世界が"転がった"という発想すら持てなかった時のことを思い出した。
櫂はあの時も言っていたはず。
俺達の五感が狂わされていると。
ならば俺の耳の信憑性もねえけれど、ゲームを通して五感を閉ざされ、そして俺は気づいたはずだ。
五感を超越できるものは"心"だと。