シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
剥離された硝子のような幻影術の名残は、完全に消え去るのを待てずして、他からの外部的な力の干渉により、急激な自壊を進められたようだった。
「新たな罠の発動か!?」
外部的な力とは――
凶々しい破壊意思を持った暴風。
触れただけでも吐きたくなるほど悍しいもの。
鳥肌が立つ程の凄まじいエネルギー。
ああ、これは――。
俺には馴染みがあった。
忘れたくても忘れられない、あの時の"慟哭"。
そして"約束の地(カナン)"にて、芹霞と共に僅かに触れたあの禁忌の領域。
この風は――櫂の闇だ。
「――煌、レイ、返事しろ!!!!」
そして耳に届いた…掠れきったその悲痛な声は、
「櫂、俺達は無事だ!!!」
間違いなく、俺の最愛の幼馴染の声で。
櫂は……俺達を助けようとしてくれていたのか。
そうだよな、それが櫂だものな。
「無事でよかった!!!」
櫂の声は、俺とチビの声と重なり合う。
回り道をさせられていた俺達は、ようやくもとの軌道に戻ったんだ。
櫂と共にある舞台へ。
「よし、これからが本番だ!!」
俺はチビに笑いかけたが――。
「……チビ?」
俺の掌にいるチビは、苦しそうに横たわっていた。
まるで発作を起こしている玲のように。
「おい、どうした!? さっきまでは元気だったじゃねえか」
「力……立て続けに使ったから。大丈夫。ちょっとくらっときただけ。がんばろう?」
笑うその顔にも元気がなく、起上がろうとする様も痛々しい。
「お前、ちょっと休んで……」
「そんな暇ないのはわかってるだろう!? 僕が、僕の目が騙されてしまったから、時間を多く取ってしまったんだ。だから、ここはさっさと仕上げなきゃ、頑張っている皆に申し訳ない!!」
「チビ……」
「セリカ、セリカ……しくしく」
現実を思い出したチビの頭には、セリカしかないのだろうか。
それでも、このチビが頑張ってくれねば話は進まねえ。
怒って泣くだけ元気があるのはいいことなのかもしれねえけれど、チビのくったり感を見過ごすことができねえ俺は、一抹の不安を抱えた。