シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



紅蓮の炎を纏った闇の力は――

吉祥の安全領域とも言える光の結界を破壊すべく、吉祥を攻撃した。


素早く吉祥が、その身を取り巻く結界の形態を、頑強な球状に切り換えた。

俺と煌の力は、螺旋状に光の球に取り巻き、破壊を目論む。


それはさながら――

聖なる光を食らおうとする、邪な蛇のよう。


俺達は正義ではなく…邪悪な立場だ。

その立場で、聖なる吉祥天を全力で攻撃している。


嗤いが込み上げてくる。


傍目では完全に悪役。

俺達は、狂ったとしか思えないだろう。



「なぜわらわを……っ!!」

「吉祥ちゃん!? やめろよ、なにをしてんだよ!? 操られているの!?」


吉祥の悲鳴と、翠の絶叫が聞こえてくる。


だが、俺も煌も力を緩めなかった。

ただひたすら、自らが放出する力を増進させるだけ。


それだけ、吉祥の結界力は強く大きい。


元凶を消さない限り、俺達は内輪より力を削り取られて倒れる。


倒れるだけならまだいい。

影にいるのが周涅なら、そんな生温い処で終わるとは思えない。



「やめろ、やめろおおおお!!」



「翠、俺達を信じろ!!」

「小猿、こいつは周涅の手先だ、黙って見てろ!!」



「吉祥ちゃああああん!!」




――剣鎧は……いつもあんな感じぞえ?



ありえないんだ。


翠が吉祥天を降臨させたということではなく、翠の作った式神が、同じ術者たる翠が作った仲間に対して、懐疑的なことを口にするのは。

彼らは前身がなんであれ、主たる翠を盲目的に崇拝する。

その主の作ったモノは、無条件で信じているはずなんだ。



そして、"癒し"。


吉祥は、その回復術で皆の疲労を癒した。


翠は満腹感を、レイは胡桃を――

即ち、彼らが欲しているものを与えられた気になり、精神力が充実した。


力の恩恵を受けたのは、翠、レイ、タマキ、ナナセ、セリカ。


その全員が今、力を奪われている。

吉祥に毒され、その支配下にある。


それが、吉祥の癒しを受入れた者と、拒んだ者との違い。

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