シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
吉祥が翠から生まれたのは事実だ。
その中身も、多少なりとも護法童子が知る吉祥ではあるのだろう。
しかし――僅かに力が及ばなかった部分を、周涅の色に染められた。
吉祥は、翠ではなく…周涅の式神と言って過言はないだろう。
その目的は、俺達に悟られないように、周涅の術を打破させないことにある。
あるいは、力の消耗を狙った、時間稼ぎ。
そして用意周到に、フェイクの犯人まで用意した。
――剣鎧は……いつもあんな感じぞえ?
護法童子が揺れていたのは本当なんだろう。
もしかすると周涅は、元々…俺達に馴染んだ護法童子を操ろうとしたのかもしれない。
だが護法童子は、結局は翠への忠誠を違えなかった。
だから、利用されたんだ。
――……揺れておる。翠殿と……別の術者との間に。
護法童子の信頼を失わせ、そして大役を担った吉祥への疑いを持たぬように。
ただ、吉祥は……周涅は喋りすぎた。
――万が一、わらわ達式神が、翠殿の命を裏切るようなことがあれば、わらわ達の力の分だけ、翠殿に返る。別の術者にとれば、呪詛返し……というもの。人の身では弾け飛ぶぞえ?
俺は思うんだ。
護法童子が裏切り者となったのなら、その言葉通り、翠は呪詛返しとしてなんらかのダメージは負うか、作り出した翠自身が不可解さを感じ取るだろう。
吉祥に知った口調で、式神の裏切りによる術者のダメージを語られ、その時はそういうものだと思ったけれど、考えて見れば現実問題、吉祥の裏切りに対しては翠のダメージはない。
翠が力を奪われているのは、単純に癒しの副作用だ。
吉祥の全ては周涅のものではなく、同時に翠のものでもない。
今はまだ――。
そんな中途半端な状態だとすれば、まだ間に合うかも知れない。
吉祥を消すのに急いでいた俺には、後回しにしていた懸案がひとつあったんだ。
それを解決するのに、有効ではないだろうか。
『櫂様』
その時、ニノの声がした。
『申し訳ありませんが、不測の事態にて急遽アップデートを開始しますので、少しの間お役目から離れさせて頂きます』
最後に、"ぷふ~"というような溜息のようなものが聞こえて、ぷつりと切れた。
なぜ急にアップデートというものが必要になったのかは謎だが、ニノも色々大変らしい。
俺は叫んだ。
「煌、予定変更。吉祥を消さずに、このまま動きだけを抑える!!」
「なんでよ!? もうちょいであの結界壊れそうなのに!?」
「吉祥の力である、真の"回復"機能を解放させて、レイ達を癒す!!」