シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
――そうだ!!
「吉祥から貰った黒髪を使え!!」
古来より、より強く…対人の術をかけるには、その体の一部が有効になる。
爪、唾、髪…そこにある残留思念こそ、術を強める絆となるから。
……吉祥が、お守りとして翠に渡したその心が、周涅の罠のひとつなのか、翠に対する吉祥の純粋な思慕から出たものかはわからない。
ただ翠の消耗は、タイミング的にもレイと同様に起こっていることから、黒髪の影響ではないように思えた。
だからこれは、賭けになる。
完全に周涅に染まっていない吉祥の心への、一縷の望み。
弱った中で、周涅より式神を奪い返す、術者としての翠の力。
従えられば、消すこともない。
それが俺が翠に出来る、最大限の譲歩だった。
俺だって、翠を悲しませたいわけじゃない。
「速攻、従えられねば吉祥を消す!! 新たな吉祥に回復させるか、吉祥を消すしか、どちらかだ!!」
「なんだよその……二択!!」
「翠、レイや他の式神の命がかかっているんだ、勿論お前もそうだ!!」
「そのために吉祥ちゃんをなんて……俺!!」
気持ちはよく判る。
懸命に作り出したものを壊すと脅す俺は非情だ。
壊さないためには――
翠が、吉祥を従えるしか道はないんだ。
「翠殿、あの者達の言うことは聞くではない!! 裏切り者は、剣鎧なるぞ!? その者達は惑わされているのだ!! 翠殿、剣鎧を!!」
「小小々猿のせいにするな、チビサクラ!! 小猿、保身で仲間売るのが、お前の式神か!?」
「翠!!」
「小猿!!」
そして、翠の名前を呼んだのは――。
「翠殿~!!」
護法童子だった。