シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


櫂――。


不甲斐ないあたしは、櫂の全てを消し去って、思い切り傷つけた。

知らないと、拒み続けた。


櫂のことを思い出した時、せめてその記憶も消し去ってくれていればよかったのに、そうは簡単にいかない。

それが消せぬ罪だというのなら、あたしは生き続ける限り、櫂を忘れたことを罪として背負い、贖っていかねばいけないと思う。


ああ、だけど今はそれより先に考えないといけないことがある。

観察をしてむふふと笑っている余裕はない。



周涅が笑いながら口にした――、

周涅の手先となっている、櫂達にとっての裏切り者。


それはあたしでも、意外に早い段階でわかったんだ。

なぜなら、その映像の視点はただ一点。


角度的に櫂達より上から見下ろしているアングルだったから。

櫂が「吉祥」と呼び、小猿くんが「吉祥ちゃん」と呼び、煌が「チビサクラ」と呼ぶ、宙に浮いているらしいそれだけの姿が、映像として映らなかったから。


なんで煌、「チビサクラ」と呼んだのだろう。

サクラって、桜ちゃんのこと……?

それは後で煌に訊くとして……。



あたしや由香ちゃんや紫茉ちゃんは、大きな声で櫂達に叫んでいたんだ。

裏切り者は、上にいると。

だけど届かなかった。


わかっているのに、見えているのに――

あたし達の声は届かない。

想いは届かない。


それを見て、周涅は腹を抱えて笑っていたんだ。


しかし、やがて櫂と煌は自分達で気づいた。

なにが裏切り者かを。


迷い無く、櫂と煌から向けられるその力に、周涅の顔が歪む。

口から出るのはなにかの呪文。

それに対抗する櫂達の手からは、血管が切れたのか…血が噴き出した。


なんとか櫂達を助けようと、玲くんや桜ちゃんが周涅を攻撃するけれど、周涅の回りには強力な結界が張られているらしく、翻った玲くんのスカートが熱に焦げた。


そして場に響くのは、周涅の乱雑な言葉。

恐らくそれは、吉祥という名のものを通して、櫂達に告げられているのだろう。


悔しくてたまらない。

どうしてあたし達の声は届かないのに、あんな男の声だけがすんなり届くのか。


もっと早く、櫂達に真実を届けられていれば、あのリスはあんなに弱ることもなく、それを助けようとした結果――櫂達は仲間を失わずにすんだのに。


ぶるぶる震えるくらいの格好良い顔のくせに、趣味の悪い金色の剣を沢山鎧のように飾った式神が、煌が手にしているリスに触れながら消えていったんだ。


もしもあたしの声が届くなら――

櫂や小猿くんに伝えたい。


あの式神、微笑んでいたよって。

凄く満ち足りた顔で消えていったよって。

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