シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
……なに、突然この熱気……。
温度が急激に上昇しているのが分かった。
「意味はわかるだろう? 僕が、なぜ床を壊したか」
その声は、怒りを抑えたような剣呑な声音だった。
「ここのサーバを使おうと?」
「そう。お前が、ここのサーバからの莫大な電気……とりわけ虚数をあちら側に流し込み、お前の術を補佐している。つまり、このサーバは、あちら側への扉だ」
周涅は笑う。
その顔に余裕がないように思えるのは、あちら側での小猿くんの反撃が辛いのかもしれない。
あちら側での攻撃に対してのダメージは精神だけかと思いきや、突如頬に走った赤い線を見れば、肉体的にもダメージを受けるのか。
「破壊すると? 今のお前の力で、これが壊せると?」
「誰が壊すと言った。壊せば東京の被害も甚大だ。…僕は利用するだけだ」
「それを俺に向けると? 人の身でそれを使えば、許容量過多でまずはお前の体が燃え尽きる。半端な電気量ではないことはわかっているはずだ。残念だが……ちっ!」
突然舌打ちした周涅は、手でなにかの形を作って呪文を唱えた。
それはこちら側ではない世界に向けて。
恐らく周涅は、櫂達がいる世界で応戦するには、呪文を唱えることが必要なのだろう。
そしてそこまで追い詰めたのは――
「翠……成長してるな」
小猿くん。
紅皇サンは少し顔を緩めて、柔らかな笑みを浮かべて小猿くんの映像を見ている。
「すごっ……浮いてる……」
「し、瞬間移動!?」
それは誰の漏らした声だったのか。
その映像は、明らかに――
あたしの知る落ちこぼれの小猿くんの姿ではなかった。
どことなく、あの消えた……美しい顔の式神にも似ているような。
凛々しさと逞しさ、兼ね添えた新生小猿くんは、中猿に昇格だ。
応援したくなる。
最初、小猿くんは敵として現れたけれど、今は仲間。
間違いなく、友達だから。
もしかして周涅の肉体を傷つけられるのは、普通ありえることではなく、小猿くんの力がパワーアップしたせいなのかもしれない。
「あっちで皆頑張っているから、僕も感化されちゃってね……僕だけ除け者にされているのは面白くないんだよ」
場に響いた玲くんの声が、やけに硬質となる。
それは、先ほどの周涅の質問に応えたように。
「僕の手に負えないほどの、サーバからの電気全てを使う気はないさ。ましてや、胎児の命から変換された、僕が操れる純化した電気をお前如きに向けるなど、そんな勿体ないことを誰がするものか。それにそうした僕の動きはお前の想定内だろう。お前が消えたとしても、あちらの世界が無事に終わるとは思えない。なんらかの策は考えているはずだ。お前がどんな状態であれ、あちらの世界を潰せるだけの」
周涅は呪文を唱えながらも、苦しい顔で口もとだけを歪めさせた。
ああ、玲くんの言っていることは正しいんだ。
「ただ、開かせて貰うだけ」
その答えは、周涅の想定外だったらしい。
「別世界を同時進行で相手にしていたのがまずかったな。そしてお前は僕を見くびりすぎていた。電脳世界の扉は、僕の力では開くことはないと」
「「ええええ!? 電脳世界への扉!?」」
あたしと由香ちゃんは同時に声を出した。