シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「ああ……」


桜ちゃんが呟いた。


「百合絵さんは、電気の力を打ち消すコトが出来る。この場のサーバーから流れ出る電磁波、人体に及ぼすだろう被害は百合絵さんが一身に抑え、そして玲様は――百合絵さんに今まで頼んでいた0と1が回復した力で……電脳世界を通じて…操ろうとしているのか」


桜ちゃんは、ひとつの映像を指さした。


「――向こう側にいる、あれを」


その映像は、煌のドアップで……途端に桜ちゃんはすごく嫌そうな顔をして、指を下げた。

桜ちゃん、そこまで煌を嫌がることないのに。


その時、百合絵さんが…なぜかスマホを取り出した。

スマホ……厳密に言えば、今ここの面子の中では1台しかない、貴重かつ忌まわしきiPhone…いや、裏面シルクハット印のhiPhoneだとかいうバッタもの。


そしてそれに向かって言ったんだ。


「告知します。アップデートが完了しました」


続けて百合絵さんは言ったんだ。


「櫂様、これよりデータを転送します」


凄く若々しい女声で。


いつものような低い嗄れた声ではなく、なんて綺麗な女声。

いや、元々女性なんだけれど。


百合絵さんは七色の声を持つ紫堂の諜報員であったことは聞いたことはあるけれど、はて、どこかで聞いたことがある声……。

このいやに落ち着いた、美麗な声を聞いたのはどこだっけ。


それより、百合絵さん…次期当主だったから櫂と接点はあるにしても、櫂のあの非公開の携番を知っていたのか?

いやいやそれより、櫂達がいる世界に、電話は通じるのか?


アップデートにデータ転送?


様々な疑問が渦巻く中、玲くんが青い光に覆われ、その輪郭が眩しすぎて見えなくなると。



映像が――

リスが、ぱっちりと目を開けた。


まるで真上の煌を凝視しているように、大きく目を見開いたまま。


その突然の有様に、煌が慌てたようだ。


『は!? チビ!? どうしたんだ、チビ!?』


煌のうろたえたような声が聞こえると、リスは一度瞬きをした。

大丈夫、可愛い小リスは生きていた。

そして、なんと人間の声がしたんだ。


「お前からしてみればチビかもしれないけど、僕……180cmは超えているんだけど」


映像からの声は、この場では眩しくて見えない玲くんのもの。

だけど映像は、くりくりとした目を動かす可愛い小リス。

リスは煌の掌の中で、むくりと体を起こして大きな尻尾を揺らした。


「ふぅ……。動物というか、僕以外の体を動かすのは初めての経験だけど、妙に馴染んでいるのはなぜだろう?」


え、まさか――。


「ね、ねぇ、神崎まさか師匠……」

「そ、そのまさかのまさかで……」



「玲が、リスになったのか!」


紫茉ちゃんの断言と朱貴の含み笑いであたし達は確信する。

桜ちゃんも含めたあたし達の意識は同じで、そのことを否定する余地もないことに。


あれはリス。

されど――。


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