シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
『あ?』
煌の間抜けた声が聞こえ――
「行くぞ、煌。なんだよそのマヌケ面。お前、少しは成長したんだろう? まだイヌ面さらしているのわかっているのか?」
『……。チビも毒舌だったけれど、この……やけに理知的に思える響きは、チビのような単細胞動物のものじゃねえ。だったら……自分のことを僕と呼び、俺をイヌ扱いする馴れ馴れしい奴は、ひとりしか俺は知ら』
「ぶつぶつ言うな。ほら、あの偽の桜……いや周涅に反撃するぞ、煌」
『お前、玲か――!? はああああ、オリジナル!?』
そう、小リスは玲くんになったらしい。
いや、玲くんが小リスになったのか?
玲くんは、リス。
リス、リス!
可愛いあのリスになっちゃった!!
「オリジナルってなんだよ。これは仮の姿に決まっているだろう、僕は人間だぞ」
『だったらなんでリスよ? なんでリスになって降臨してるよ!? お前リスの神様か!?』
「またわけのわからないことを。このリスにあの式神が吹き込んだ命は、リスと同じ雷……電気の属性。だからこのリスは助かったんだ。その意識が戻らない間に、今度は僕の意思を電気として電脳世界を通じて送り込んだことによって、リスの肉体は僕を己の意思として取り込み、ひと時同調するのに成功しただけのこと。今は僕がリスの意思の目覚めを抑えている。なにも難しいことではない。ん……同じ属性で同調したから、体に馴染んでいるんだな、きっと。そうだ。そうでなければ、なんで僕がリスの体に……。だけど、リスがなんで僕と同じ電気…雷属性なんだろう。まあいいか、それは後で考えよう」
『わからねぇ。難しいことずらずらいって平然としているのは確かに玲だけど。レイが玲になったからって別に驚くことはねぇのかもしれないけど、寧ろ玲の声で喋っていたチビよりは、今の状況の方が現実的な説得性があるのかもしれねぇけど、だけど俺……説得されてねぇ、チビの体に、レイと玲。なんだこりゃああああ!!』
「玲、玲と僕の名前をやたら連呼するなよ、お前頭ショートしかけてるんだね、もうそれ以上なにも考えるな。ああ…この高さだと何も見えないや。やっぱりお前の頭に乗るしかないか」
そして――。
目を白黒させてまだ状況を掴めていないらしい煌の頭の上に、二本足で仁王立ちをする……リスの玲くんが叫んだ。
ふさりと、見事な尻尾を左右に揺らして。
「煌。お前には特別に、間近で――今まで披露できずにいた、朱貴との特訓結果……僕の奥義を見せてやるよ。…驚くなよ?」
途端に紫茉ちゃんが、目を輝かせながら呟いた。
「玲……ついに見せるのか。
あの奥義――」
玲くんは小さな両手を空に掲げ、叫んだ。
「「サンダーボルト~アターッック!!」」
紫茉ちゃんの声と玲くんの声が重なり、
「「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
互いの両手を握り合っているあたしと由香ちゃんの驚愕の声が、それを追いかけた。