シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


だったら、煌。


理性より本能で生きるあのワンコなら。

間近で見ていたのだし、奥義についてはさぞかし……。


『……ちょっと』


不満げな声を出したのは、煌の頭に居る小リスだった。

小さい口を尖らせながら、煌の頭を片足でダンダンと叩いているようだ。


『反応しろよ、お前』


すると煌は言った。

なけなしの脳みそをフル回転させている時の、実に難しそうな…苦しそうな顔つきで。


『あ……うん』


言葉を濁したというよりは、それしか返答のしようがないというような、端的すぎる言葉。


すると愛らしい小リスの顔が、一気に険しくなった。


そして煌の前頭ぎりぎりに立って前屈みになると、逆さまから煌の顔を覗き込んだようだ。

しかし体が小さすぎて、思う位置まで頭を下げれなかったらしい。

今度は寝そべるような体勢になり、ずりずりと落ちない程度の位置まで匍匐(ほふく)前進し、そして器用に、小さすぎる両足と片手で奴の前髪を掴みながらバランスを保ち、空いている反対側の小さな手で、煌の額をぱしぱしと叩いて不満を訴えた。


『うんじゃないだろう? なんだよその無反応』


小リスの矜持が傷つけられたらしい。

こちら側にいれば、お祭り状態なのに。


『お前がチビサクラと呼んだあれを、焼き焦がしたんだぞ!?』

『あ……うん』


またもや同様な反応に、小リスの玲くんはふさふさの尻尾も使い、とにかく煌の顔をパシパシ叩いて、憤慨しているようだ。


『もっと言い方あるだろう!? 凄いとか強くなったなとか、流石だなとか。感動したとか、感動したとか、感動したとか!!』


小リスは、ひたすら煌に感動して貰いたかったらしい。


『あ……。なんと言うか……うん』


しかし煌の反応は微妙なまま。


眉間に皺を寄せながら、煌は言いにくそうに言った。



『インパクトに欠ける、というか……』

『えええええ!?』


驚いたのは小リスの方で、煌の上から落っこちてしまう。

それをすかさず煌が掌で受け止めた。


『なぁ、玲。お前、その姿で2リットルのポカリ、一気飲みできるか?』

『はあ?』


奴は、おかしなことを言い出した。


『二足歩行はいいや、お前もしてるみたいだし。じゃあ1トン近くのブロックを両手で抱えて、ジャーマン・スープレックス出来るか?』


小リスの……ジャーマン・スープレックス?
< 1,276 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop