シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


あたしは、慌てて場を見渡す。


何事かと驚いた顔を見せるのは、こちら側の世界にいる……桜ちゃん、由香ちゃん、紫茉ちゃん。

そしてあたしを無視している朱貴と、俯いたままの周涅。

百合絵さんも両手両足を開いた状態で、iPhoneを手にしたまま、陥没近くに立っている。


その時、鮮明だった音声にザザザと雑音が混ざった。


「なぁ、葉山……。師匠、さっきから口動かしているけど……」

「ええ。私達に訴えているのかもしれません。顔がこちらを向いていますから」

「やはり桜もそう思うか。しかし口が小さすぎるのと、雑音に邪魔されて、玲がなにを言っているのか聞き取りにくいな。なあ、芹霞……さっきからどうしたんだ、きょろきょろと?」


いない。

いないじゃないか。


「紫茉ちゃん、いないの」

「え?」



「皆さん、わかりました。玲様は――」




あたしは叫んだ。

桜ちゃんと同じ単語を。



「『久涅』は!?」



さっきまで、この部屋にいたじゃないか。


いつからいなかった?

いつから会話に参加していなかった?


ああ、周涅があちら側の世界の風景を見せた時。

あの時から、あたしは、久涅の姿を見ていない。


あちら側の景色に気を取られすぎて、人数が減っていたのに気づかなかった。



「久涅はどこ!? どこに行ったの!?」



その叫びに呼応するように、今まで動かなかった周涅の手がぴくりと動いた。

そして持ち上げられるその顔には。


冷たい笑いが浮かんでいた。


それは勝ち誇ったようなものではなく、どこか哀しげで。

周涅にも不似合いの弱々しい情で。



「玲様が、もうひとつ口にされています。


……ね……こ……?」




そして――

忘れてはならないひとつの存在も消えていたのに、今更ながら気づく。



「ハゲネコ様は!? クオンはどこ!?」



頭に音が聞こえる。

まるで何かを知らせるようなベルの音にも似ていた。



それは終幕なのか、開幕を知らせる音なのか――

あたしにはわからなかった。



ただ、ひたすら願う。



皆が無事で切り抜けられるようにと。




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