シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
こちら側のサーバーの役目は僕、小リスと式神はあちら側でのサーバーの役目となってくれたが、このままではただふたつの場所に、道具が放置されているだけの状態。
そこに専用回線を引いて、電源を入れねばならない。
時間をかければ、僅かな間だけ、電脳世界の目眩ましとなるようなダミーのプログラムを作ることも可能だろうけれど、そんな余裕もなく。
なにより僕は、電脳世界の境遇を思えば、いや…それ以上に電気が胎児の命であることを思えば、ここで必要以上の電気を使いたくなかった。
僕が持ち得る既存のもので応用出来ないか。
しかもそれは、周涅の目にとまらないもので。
なおかつ、電脳世界にも悟られず、独自の通路を開くためには――。
『櫂様達と通話でやりとりをしています』
百合絵さんが投げた、思いがけない好機に僕は食いついた。
ふたつの世界を繋ぐものがある。しかも電気を使って。
なんでその機械で櫂達とやりとりをしていたのか不思議では思ったけれど、話せば長くなるということでそれを聞くのは後回しにした僕。
いまだ百合絵さんが櫂と連絡を取り合えるのなら、その電気で結ばれた回線は電脳世界に認可されているのか、わかられていない可能性が大きい。
『今、私は櫂様達から忘れられています。それどころではないんでしょう』
百合絵さん曰く、櫂達の指示がなければ勝手に連絡出来ないらしい。
『私の機械は、声で指示されないと勝手に操作ができない、非常に困った作りになっています。しかも一定時間たてば、私からは連絡ができません』
声の指示で動くのはまるでSiriのようだなと思いながらも、音声通信の脆弱性を補うプログラムの必要性を感じた僕は、そのプログラム実行のためには、唯一櫂と繋がるiPhoneを持つ百合絵さん側からの操作が必要だった。
使いやすいような改良版にアップデートをしなければ、僕の意思を電気信号として乗せにくい。
そんな時、百合絵さんから櫂達と連絡がついたと連絡があり……、僕は百合絵さんの活躍で解放された東京の電気を用い、周涅の気が櫂達に向けられている隙に、密やかにプログラムを組み立て、百合絵さんの帰りを待った。
僕達が居る部屋は、朱貴の力で壊せたトラペソヘドロンで出来ている。
僕の奥義をもってすれば、僕でもこの壁を壊せたかも……などと自惚れた心も浮かんではいたけれど、それを試すだけのゆとりはない。
真下に眠るのは巨大サーバー。
その音と電気の流れをこの部屋から感じられるということは、床の一部分だけ、あの素材が使われていないのか、もしくは、そこだけ壁が薄いのか。
裏世界と繋がるサーバーであるのなら、その膨大な電気の力が…特殊素材の効果を薄れさせてでもいるのか。
脆弱な床の部分を壊して、巨大サーバーの力を表に出す必要もあり、外気功程度で床を壊せたのは、幸運だったと思う。
巨大サーバーから流れる膨大な電気は、櫂達の世界に繋がっている。
そしてその中で、走り抜けられる独自ルートも作り終えれば、あとは、そこへ至るための扉を……電脳世界への扉を開くだけ。
開くために必要な力は、既にある。
そして莫大な電気の余波を、百合絵さんの特異能力が受け止めてくれる。
そして僕の意思は――
小リスの体に宿ったんだ。
それはデータ転送の如く。