シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
僕が式神であったならば――。
ありえもしないことを想像する僕。
力の差違を見せつけられるよりも、大きな心を見せられる方がぐっとくる。
力で心を服従できるのだとすれば、僕達はとうに周涅を初めとした強敵に屈している。
だから思うんだ。
きっとこの吉祥が翠の式神となることを心から決めたのは、その力を見たからが理由ではなく、許せるような寛大な心を見たことが理由ではないかと。
もしかすれば、裏切り者だとわかっていても、それでも吉祥を消すことに最後まで躊躇っていた、その時から周涅の呪縛は少しずつ溶けていたのかも知れない。
翠は――周涅の力に勝ったんだ。
少なくとも、その心は。
「どうしたの、チビ……いや、紫堂玲?」
僕が尻尾でとんとんと、頭上から叩けば翠がそう応答し、僕を摘んでまた掌に乗せると、彼の目線の位置に固定した。
人間の時は随分と小さく思っていたのに、今大きく思えるのは、リスの目線だからだろうか。
それとも翠が成長したからだろうか。
「翠……。朱貴も見ているからね、紫茉ちゃんも。全員が」
「本当に!?」
「本当だ。喜んでいるよ、君の成長」
翠が破顔した。
誰かの目を意識することなく、それで培われた強さと優しさならば、それは真性といえるのだろう。
純粋のまま成長した皇城翠。
きっと彼はこれからも伸び続ける。
その限界は見えないのが、恐ろしくもあり……楽しみでもあり。
櫂が裏世界に連れた理由が判った気がした。
翠は、僕達の"憧れ"なんだ。
「ねえ、葉山は? 葉山も「そうだ、櫂は!? 煌は!?」
翠がなにかを言いかけていたのを遮り、僕が再び下を見た時だった。
爆裂音と共に、大きな地鳴りの音が聞こえてきたのは。
この音は……嫌だ。
規模は小さいとはいえ――
"約束の地(カナン)"が……爆破された時のような音じゃないか!!!
そして感じた、不吉な予感。
周涅の最後の"置き土産"が、作動したのかもしれないと。
それは自爆装置といった方が妥当かもしれない。
それが動き出した、合図のように思えた。
僕達の介入あるなしに関わらず、それがどんな結果になろうとも、周涅の初志を頑なに貫徹しようとする――、
周涅の意思、それは即ち――、
裏世界の崩壊。
今まさに、この裏世界の空気は、
全てを飲み込んで消えてしまいそうな、そんな危険に満ちていたんだ。