シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「櫂、大丈夫か!? 無事か!?」
ぴょこんと大きく跳ねて、俺の肩に飛び乗ってくる玲。
すぐに俺の心配をする様子は、玲には違いない。
この必死すぎる表情がまた、なんとも愛らしい。
「俺は大丈夫だ。ここまで来てくれてありがとうな」
思わず微笑んで、指先でその頭を撫でると、大きな鳶色の瞳は潤んで揺れた。
話したいことは山にある。
離れていた時間は僅かのようで長い。
だけど、今はそんな悠長な時間はない。
語り合うのは、真実平和が訪れた時に――。
「皆、大丈夫かい!?」
割るように視界に入るのは、黒い忍び姿。
玲の耳がひょこりと立ち、見知らぬだろう睦月を見つめる。
「牛女!!! お前も無事だったんだな。おぉ、ご大層な乳が戦いによって抉れて…」
「ないわ、この変態!! どこ見てるんだい!! そこの助平リスもだよ、なに舐めるようにじっと見るんだい、今更じゃないか!!」
「な、舐め…す、すけ…!!? いや…え、僕は別に……」
玲は珍しく狼狽え、俺の頬に小さな手を置いて、睨み付ける睦月の視線から隠れようとする。
そんな時、煌が意地悪く笑った。
「ふーん、俺いいつけてやろ~、玲は爆乳を舐めるように見てましたって。あいつ怒るだろうな~。へ~、玲は乳好きなんだ?」
「!!!?」
「イテテテ、カリカリすんな、玲、玲――っっ!! 芹霞だって爆まではいかないけど、普通よりは大き……」
「お前は、誤解を招く言い方するなよ!! 僕が好きなのは胸じゃないんだ、例え芹霞の胸が洗濯板だろうが…うわ、なに、このへのへのもへじ!!?」
そこに参戦したのは、どこからか走ってきたセリカ。
大きな偃月刀をぶんぶん振り回して玲を攻撃する。
「お~、こっちの世界でお前が求愛したセリカが怒ってるぞ。絶対、こいつの胸は貧乳……うわ、俺の偃月刀を俺にまで振り回すな!!」
そんな中でも、裏世界の景色は揺れている。
今はまだ揺れているだけだ、今はまだ…。
「緊張感…出してよ、例え結界の中とはいえさ…」
翠が呆れたような声を出しながら、宙から降りてくる。
その手には、ぐったりとしたナナセを両手に抱えるタマキが乗せられている。
俺がナナセに触れようとすると、タマキが俺の手を払う。
それを見たセリカが、いとも簡単に玲と偃月刀を投げ捨ててナナセの元に駆け寄った。
「なに、ねぇ、あのへのへのもへじなに!!? どうしてお前の偃月刀を振り回せるのさ!!?」
玲は若干びくびくしながら、再び俺の肩に乗った。
「結局は、ナナセのひとり勝ちらしい。お前よりもいいんだと」
偃月刀を拾いながらの煌の説明に、玲は返事をしなかった。
現実の芹霞を思い出しているのだろう。
ドドーン。
一際大きい震動があり、俺達は全員球状の光に包まれ宙に浮いた。