シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「幸いか、夢路達の塔に居る皆の抵抗のおかげで、まだ若干ながら決定的な破壊までの猶予がある。確定的なものがくる前に、住人を全て探しだし…そして助けねば」
俺の言葉に、誰もが押し黙る。
そう、俺達が生き伸びるだけの問題ではない。
俺は約束したんだ。
裏世界の皆を、太陽の元に連れると。
そして――。
「そしてこの世界には、緋狭姉もいる。ここでの緋狭姉の加護は期待出来ねぇ。俺達が緋狭姉を救わねば」
煌の言う通りだった。
罪人として動きを制されている緋狭さん。
肉体は約束の地(カナン)にあるということは、この地にあるのはその心。
失ってはならない、気高き紅蓮の本質。
「おい、牛女。他の忍者達を集合させられるか?」
「今この状況で!? 出来るとすれば塔からの鐘の音だね。それがいつもの合図だから」
「だけど、あの塔は今にも崩れそうだね」
玲が塔を見上げているようだ。
そして強張った声を出して、俺の頬を手で叩く。
「櫂、硝子の色…変わってきていないか!?」
それは、吉祥が作る光の影だからだと思っていた。
黒さを染みこませて、より闇色に輝いているように思えたのは。
「虚数が…増えてる!? あのスクリーンから放出していた虚数がなにか悪作用したのか!?」
虚数を感じ取れる玲が言うのなら、事態は更に最悪となっているというのか。
「虚数の…黒い塔。つーことは、硝子の塔が…表世界と約束の地(カナン)にも出来た…あの、トラペソヘドロンの塔になってきたということか!? なんだよ、そりゃあ!! 脆い硝子とめっちゃ堅いあの素材と、どこが結びつくよ!? それよか、こけし!! そんな変なもののに変わっていく塔にいるこけし達は無事かよ!?」
煌の声に緊張が走る。
「おばあちゃん……」
睦月の声が震えた。
「あっちもこっちも頭がパンクしそうだけど、すべきことは、あの塔が完全に変わっちまう前に、中の奴らを避難させること。忍者達を集合させること。緋狭姉に傷を負わさせないこと。これでOK?」
苦悶の表情を浮かべながら、端的に述べた煌の言葉。俺は補足した。
「もうひとつ。塔の下にある魔方陣を壊させないこと」
「魔方陣? あるのか、この世界にも」
玲の堅い声に俺は頷く。
「やはりそうか。黒い塔と魔方陣は無関係ではない……んだな。表世界にも、虚数を放つ多くの黒い塔付近に、それぞれある可能性がある。だけど、存在の意味が僕にはよくわから…」
玲の声を遮るように俺は口早に言った。
「皇城雄黄は既に死んでいる。生かしているのがこの魔方陣だ。そしてこの魔方陣のひとつが、"約束の地(カナン)"のものの可能性が高い」
「死んでいる…?」
小リスの尻尾が、俺の首筋に揺れた。