シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「しかも小猿の兄貴は、黄皇として復活して、緋狭姉達現役五皇に羅侯(ラゴウ)の復活を防ぐ生け贄になれとか言い出しているらしい。黄の印とやらで縛って」
「黄皇…雄黄…あの男が曲者か。緋狭さんを救うには皇城雄黄をどうにかしないといけない。どうにかするためには、魔方陣を壊さないといけないということ…か。だけど魔方陣を壊したら、久遠が……」
「だけじゃない、玲。もしかすると、この世界の住人も…だ」
睦月がじっとこちらを見ている。
「この世界が危険に陥ったのは、俺達が元凶なんだろう。だからといって、今俺達がこの世界を去ったところで、爆破が食い止められる可能性は五分五分だ」
「ん…、そうだろうね、悪意あって爆破を仕掛けている人間や、仕掛けられている術が存在するのなら、それをなんとかしないと。原因を残したまま表には帰れない」
約束の地(カナン)とは違い、強力な抵抗があるせいか…何度も爆破が試みられているのなら、爆破犯の接触はいまだ続いている。
人であれ術であれ…その接触を断ち切らぬ限り、裏世界は危険にさらされたまま。
その状態で、裏世界は安全になるからと俺達が去れるわけがない。
相手が久涅にしろ周涅にしろ、情が通じる相手ではないんだ。
だから約束の地(カナン)は……!!
思えば、悔しさと怒りが沸々とわき上がってくる。
「情報屋の聖…緑皇はどうしてる…?」
玲は既に緑皇の正体を知っているらしい。
「負傷中で、うまく結界を張れないらしい。代わって機械…電脳世界の力を用いて、防御の補佐しているのが、クマと……」
玲の大きな目が、突如言い淀んでしまった俺の瞳をじっと見つめて、そして呟いた。
「僕の…父?」
「なんで……」
俺の喉元から、掠れた声が漏れ出る。
「そうか…本当…だったのか。お前が言い淀むくらいだものね」
ぱさりと、大きな尻尾が揺れた。
「変に気を使うなよ。僕にはなんの感傷もない。むしろ三沢さんがいて、電脳世界の力で裏世界の防御となりえているのなら、僕はそれに協力したいんだ。決定的な爆破に耐えられるだけの防御を作り出したい。それに、虚数に変わりつつある環境を抑えられるのは、僕だけかもしれないだろうからね」
「玲……?」
玲に動じたような気配が見られないのは、玲の姿がリスだからなのだろうか。
それとも、いつものように心を抑えているためなんだろうか。