シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「なんでこのタイミングで砂嵐よ!? つーか、俺達…身を隠す場所がねぇじゃないか!!」
煌がヒステリックに怒鳴る。
砂を巻き上げている竜巻はまだ遠くに見えるとはいえ、確実に俺達の方に移動している。
さあ、どうする。
「このまま結界を張ってやり過ごしたとしても、時間は確実にロスする。無理矢理移動したとしても、緋狭さんの元に辿りつけるかは不明。かといって、ここから全速力で塔に戻って避難したとしても、砂嵐をやり過ごしてここにまた移動するまでに、15分は経つだろう。そうなったら」
なんの成果のないままに、15分が経ってしまえば――
「GAME OVER
そして――
THE END、だ」
俺達の今までの苦労も、玲の助力も、全てが全て無駄に終わることになる。
あまりの苛立たしさに、思わず歯軋りをすれば、煌が頭をがしがし掻いて言う。
「我が身可愛さに避難するくらいなら、前に進みてぇけどよ…あの嵐の規模、半端じゃねえぞ。つーかさ、緋狭姉自体…あれ近付いていて大丈夫なのかよ?」
煌の疑問を受けて、俺はふと考えた。
「別に砂嵐は今初めて現れたものではない。ということは、緋狭さんは何度もこの嵐に身をさらされていた可能性が高い…ということだな」
そこから考えられるのは――。
「緋狭さんがその中を切り抜けられたというのなら、囚われの身でも回避出来る手段があるということ。或いはもう、回避の必要がな――…」
俺は口を噤んだ。
「櫂。こけし達は緋狭姉が死んだとは言っていないんだ、その選択肢は却下」
真剣な煌の顔には、一切の迷い無く。
言い切れる自信は、煌の野生の勘ゆえのものだと信じたい。
「そう…だな。緋狭さんは生きている」
そう頷きながらも、それならそれで別の不安がわきあがる。
過去幾度もの砂嵐の中、緋狭さんを守り生かしていたのが、囚われの緋狭さん自身の力では無く、なにか他の干渉があったからと考えれば……。
「緋狭さんを罪人だとしているのなら、この世界の住人が砂嵐の度に緋狭さんを護ることはしないだろう。それにこの前の時も、夢路からしてそんな様子もなかった。だとすれば自然な回避策のひとつとして、森というものが防風林的な役割を担っていた可能性が高い。
だが今、その森はない」
つまり、今の状況は、丸裸の緋狭さんにとっても初環境であり、最悪ということ。
「だったら、取るべき術はひとつだな」
俺の笑いに、煌が乗じる。
「だな。砂嵐が緋狭姉を飲み込む前に緋狭姉を見つけて、俺達の結界にいれて護る」
そう、それしかない。
幸い竜巻の進行速度は速いから、通過の瞬間守護を強めればいい。
爆破に備えての守護は、まずはこの突如出現した嵐をやり過ごしてから考えよう。
まずは、緋狭さんを探さないと。