シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
ゴォォォ。
『……だ』
「……声が聞こえるのに姿がねえなんて、なあ、櫂。幻聴じゃねぇか?」
「ふたりでか?」
「だけど、どこにもいねえじゃないか。つーか、砂埃でまるで見えねえし。緋狭姉を気にしすぎているから、きっと幻聴が…」
ゴォォォ。
『こ……に……る』
「だが、俺達が気にしすぎているからというには、リアルだ。まるで傍にきているようだぞ?」
「まさか……なあ、まさか緋狭姉…」
煌が泣きそうな声を放つ。
近付く嵐が、煌の橙色の髪をばさばさと揺らした。
「死んでしまったから、怨霊の声が――…」
「たわけ、この馬鹿犬が!!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!
やっぱり聞こえた…緋狭姉の声!!!
こんどはくっきりはっきり間近から!!」
煌は俺の背中に隠れた。
「長く囚われすぎて、干された緋狭姉が地縛霊になったんだ!!」
無論、煌の方が体が大きいから、隠れるはずはないのだけれど。
「人を勝手に殺すな、馬鹿者が!!」
ああ。
この嵐が近付いてくるまっただ中、俺の肉体も血飛沫をあげてオーバーヒートしている状況で、
「何処だ、何処から緋狭姉の声がしているんだ!?」
姿が見えない尋ね人の声が聞こえてくることも非現実的。
「いるだろう、お前の足元に」
いや、既に人の声を話すリスは許容しているから、これもその延長上だと思えば…なんでもないことなのかもしれないけれど。
少なくとも、この世界におきることに限っては。
俺達は、今まで見向きもしていなかった自らの足元を見た。
「「………」」
ばさばさと、風に揺れるのは白いふさふさ。
スタイル良いその体躯と、気品ある整った顔立ち。
つんとすましたような顔で、俺を見上げる…紅玉のような真っ赤な瞳。
それは、俺を苛立たせるある人物を彷彿させるけれど。
「なんだ、その間抜けた顔は」
発する声はその人物のものではない。
それは――。
「お前までもか、坊」
それは――、
「はあああああ!!? これが緋狭姉!!?」
どこまでも見事な毛並みを持った、
「どう見ても、ニャンコじゃないか!!」
美しいネコだった。