シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「あれ……櫂、このニャンコ……」
俺の記憶にも残るその姿。
「チビとタッグを組んでいた、"だらだら久遠"じゃねえか!!」
同じ事を思い出した俺達は顔を見合わせた。
「あの時は、久遠の声だったけど……なんで今は緋狭姉!? ゲームは終わったんだよな、終わったように見えてたのは夢で、実は続きが始まっているとかいうのは……」
煌の言葉を打ち消したのは――どこまでも久遠を思わせるネコ。
「安心しろ。この世界での"久遠"は幻。私の姿は、この世界での現実だ」
実に満足げに、超然とした笑みまで見せる白ネコではあるが、見事なふさふさを風に逆毛立て、飛ばされないように必死に地面に爪をたてているのか、心なしか…その四肢がぷるぷると震えているようにも見える。
聞き間違いではない。
このネコは、緋狭さんの声で話している。
声音の模写ではないだろう。
なぜなら――。
「は!? だらだら久遠が緋狭姉!? 緋狭姉があまりにもだらだらして、昼ドラのドロドロに染まってるから、とうとうこんなぐうたらニャンコに……」
「私のどこがだらだらでドロドロだ!! ぐうたらして鍛錬を怠っているのは誰だ!? お前が日々の鍛錬をきちんとしていれば、緑(リョク)のゲームなど難なく切り抜けられたものを!! 護衛が、病み上がりの主に無理させて進ませてどうする!!」
赤い目を吊り上げ、シャアと口を開いたネコは、鋭い牙で煌に飛びかかる……そんな様子は、姿こそ違えど、どう見てもいつもの緋狭さんとしか思えなかった。
「ひぃぃ!! だらだら返上のこの凶暴性はまさしく緋狭姉!! とっ捕まってるのになんで俺達の動きを知ってるんだよ、一体どこのストーカーだよ、……はっ!! もしやあのゲームに現れてた緋狭姉のどれかが、実は本当の緋狭姉だったとか? そう思えば本人以外に、あそこまで俺達を追い詰める根性悪な奴なんかいねえよな。或いは、緋狭姉は分身が沢山いるとかいうオチ…」
「お前は私をなんだと思っているのだッッ!!」
「うわわ、緋狭姉…噛み付くな!! 落ち着け、落ち着け!! はぁはぁ…あの時の、チビとのコンビが緋狭姉ニャンコじゃなくてよかった…。俺、マジ命なかったかも」
ぜえぜえと息をした煌は、そして呟いた。
「緋狭姉……ニャンコに転生、早すぎだって……」
「私は死んでないわ、この馬鹿犬が!!」