シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



ゆっくりと移動していた嵐の中心部が、間近に迫っている。


地面を抉るようにして、巻き上がる砂埃。

吹き飛ばされそうな体を、俺の力で押し返してはみたものの、時間の問題だ。


九星の陣を破るのに、風も闇の力も使い過ぎていた。

今なんとかしないといけない時に、はじき返せるだけの力が蘇ってこない。

煌が増幅の力で、俺の力を補佐をするが、煌も疲弊しているせいか、いつものような爆発的な力とはなりえなかった。


「ほう、これはこれは凄い風だ。東京の……坊の"あれ"を思い出すな、煌」


やはり緋狭さんは、なにかを"待って"いる。

不自然なほどに、逃げようとしない。


「なに悠長なこと言ってるんだ、緋狭姉!! 身の危険を感じろよ。今の緋狭姉はニャンコなんだぞ!!? 櫂や俺が踏ん張らないと、緋狭姉飛ばされるんだぞ!!」

「ああ、よい。坊も無駄な力を使うな。その力は別の機会の為に温存せよ」

「あ? なに暢気なことをいってるんだ、緋狭姉!! もっと危機感を……」



暴風の中、煌は無理矢理緋狭さんを腕に抱いた。

せめて体で緋狭さんだけを護ろうとして。

だが緋狭さんは、それを嫌がり…するりと煌の腕から抜け出てしまった。

まだ俺の結界内とはいえ、俺と煌の力が尽きれば、風の威力に瞬時に切り裂かれるだろう。


それだけの嵐が、今俺達を――。


ああ、感じる。

嵐の中心部が、今――。



「緋狭姉!!!」

「大丈夫だ、心配するな。これくらいの砂嵐は――」



その時、"気配"を感じたんだ。



「このくらいの砂嵐なら、"相殺"される」



ああ、どういうことなんだ?

この嵐の彼方から、どうして出現が出来る?


あれは――。


「待て待て待て!! 緋狭姉、なに喜んでいるんだ、"あいつ"が味方のわけないだろう!!?」

「固定観念を捨てよ、煌。お前も同じ、"助けられた身"ではないか」


風の勢いが鎮まっていく…?

風属性の俺が制しきれなかった風は、徐々に勢いを弱めている。


「だから!! なんでこの世界で助けられたからって、あの格好で首刎ねなきゃならねえんだよ!! なんでそんなのが味方なんだよ!!」


煌が指を差す向こう側。

風の治まった向こう側から、視界に翻えるのは黄色い布。



最後に見たのは、約束の地(カナン)。

今、この地にいるのは……どういう理由で…?



「あの、仮面をつけたあの男は一体なんなんだよ!!」



あれは榊。

黄衣の王。



榊は既に、緋狭さんと示し合わせていた?


それは――…


――我が君のために。



氷皇の意思なのか?


だとすれば。


なぜ黄色の衣をつけさせる?
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