シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「紫茉ちゃん、このまま放置してたら、きっと周涅は出血多量で危ないよ。手当てして生かしたとしても、櫂達は黙っちゃいない。その報復は恐ろしいと思うけど? 周涅は今までのようにしたい放題できないわ。一度でもあたし達に"負けた"という事実がある限り、それをとことん利用して、もう好き勝手させやしない。どっちに転んでも、周涅には苦痛よ。だったら…どうしたい?」
ああ、この瞳だ。
緋狭様にも通じる、慈悲深いこの瞳。
闇に揺れ続けて生きてきた芹霞さんだから持ち得る、強くも温かいこの瞳は。
闇に触れて流離う者達の、救済となる。
「……て」
七瀬紫茉は言った。
「生かして!!」
涙を流し、周涅を抱きしめながら。
「どんな兄でも…あたしには、ひとりっきりの兄なんだ!!」
その言葉を聞いて、芹霞さんは微笑み…そして朱貴は依然冷ややかな顔のまま、赤い光を放つ手を周涅の肉体に翳した。
誰一人として、七瀬紫茉を責める言葉はなく。
むしろ、本音を吐露した彼女に、ほっとさえする心地で。
彼女の心意気はわかっている。
不条理なことを嫌う、真っ直ぐな心の持ち主だということもわかっている。
だからこそ。
自分の心にも、真っ直ぐになって貰いたい――
そう思ったのは、苦楽を共にしているゆえのことなのか。
七瀬紫茉の瞳を曇らせたくないと思ったのは、私だけではないはずだ。
「ごめ…ごめん、芹霞。ごめん…櫂、玲…煌。翠……桜も朱貴も由香も…。皆ごめん、酷いあたしでごめん…ごめん…」
芹霞さんと由香さんが涙目で、泣きじゃくる七瀬紫茉を宥める。
「紫茉ちゃん、謝らないで」
「そうだよ、七瀬。むしろ、"殺す"と言われた方が、どうしていいかわからないぞ、ボク達は。君の兄貴はすぐそういうこと口にするみたいだけど、優しいボク達は違うんだからさ」
「本当だよ。そうだよね~、桜ちゃん」
「まあそうですね、聞きたいこともまだ沢山ありますし、こんな処で死なれたら困ります」
この選択は、客観的に正しいとは言えないかもしれない。
この甘さに、後に苦しめられるかもしれない。
だけど。
私達は、人間を蛆虫のように考える周涅ではない。
蛆虫扱いされている私達にだって、心がある。
それを見せつけてやりたい。
弱い蛆虫によって生かされて、それでも自分は偉大だと言えるのか。
ある意味、彼の動向が見物だ。
「皆様――!!」
その時だった。
光に包まれ、姿が見えないままの玲様の傍らにいるはずの、藤百合絵の声が響いたのは。