シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「皆様、映像データを転送します。お持ちのiPhoneをご覧下さい」
「ねえ、あの綺麗な声、百合絵さんの声? やっぱあたし、どこかで聞いたことがあるんだけど…」
「ん……。実はボクもどこかで聞いたことがあるんだよな、最近というより昔……」
私達の中でiPhoneを持っているのは、朱貴と七瀬紫茉だけだ。
七瀬紫茉のiPhoneを覗き込んでいた、芹霞さんと由香さんは同時に叫んだ。
「「なぜに、消えたハゲネコ様があっちにいる!!!?」」
ハゲネコ……あのクオンが裏世界に!?
どうやって!?
なぜ!?
私も慌てて画面を覗き込んだが、視界に飛び込んできたのは、目にも鮮やかな橙色。
どうして私が覗き込むと、あの馬鹿蜜柑の顔になるんだろう。
どうして離れていても、私を不快にさせるのだろう。
「なぁ、神崎。なんで如月、ハゲネコ様に怯えて逃げてるんだろう? イヌってネコを怖がる動物だったっけ?」
「初耳だなあ。化けネコだから…にしても、あいつはお化け屋敷もホラーも笑いとばす奴なんだけど…。ハゲネコ様は特殊で最強なのかなあ。なんだか、お姉ちゃんに怒られている図みたい」
ぶっと、吹きだしたような音がしたのは、周涅を治療している朱貴からのような気がしたが、そちらに視線を向けると、朱貴は片手にした画面を変わらぬ表情で眺めているだけで。
気のせいだったのか。
「俺の画面は、玲視点だな。画面が2つか、見にくいな。また一同に映像を投射できないのか?」
「了解しました。先程までのように実物大に2分割モードに切り換えますが、仕様により音声は出ませんが……」
先入観というのか、固定観念というべきなのか――
姿が見えねば、あの百合絵さんの姿を想像出来ない。
女とは、あの化けネコ並みに、不思議な生き物なのかもしれない。
「いい、音声など。表情を見ていればわかる」
朱貴の言葉に、実物大の二種の映像が私達を取り巻いた。
音はないものの、裏世界の彼らの動向は映写でわかる。
櫂様達は…今、どこにいるのだろう。
砂嵐の中にいるような映像で。
今、周涅に意識ないということは、この砂嵐は周涅の術ではないのだろう。
深刻そうにしている櫂様と煌だが、クオンは吹き飛ばされそうになりながらも動じず、一方を見つめると――。
「嘘!!」
芹霞さんが声を上げた。
「嵐に混ざるように、黄色い蝶が飛んでる!!」
すると紫茉さんも芹霞さんと同じ方向を見つめて、動揺したような声を上げて同意した。
このふたりは、この世界で黄色い蝶が見える。
これは映像、私達にとっては幻。
だが櫂様達の世界にとっては――。
「葉山は見える?」
「私は見えませんが……」
「「え!?」」
芹霞さんと紫茉さんが、私達には見えぬその映像に身を乗り出した。
「今…なんで消えたの?」
「嵐のせいではないな、黄色いのがなにか横切ったような……」
七瀬紫茉の声に、朱貴が顔を上げて目を細めた。
「うわわ、葉山…ちょっとあれ……あれはやばいんじゃ!?」
それは黄色い蝶が見えない私達にも見える映像。
櫂様に近付くのは……
「黄色い外套男!!?」
そして嵐は消え、仮面の男は、堅い顔をした櫂様と対峙した。