シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「だが秘密結社が裏世界に築いた地盤は固かった。知識と技術と秩序を与え、表世界で生きられない人間達を"生かす"代償に、表世界で"黄衣の王"として羅侯(ラゴウ)に敵対する妖主となりえるかを試させた。特殊技術により、実戦経験からの突然変異の種を植え込んだ。それに耐えられねば、肉体はやがて弾けるか精神が狂って崩壊するか、黄色い蝶に殺されるか。
だが幸いか、何人か試練に生き残っている。今のところ」
「何人か…? 黄衣の王は複数なのか?」
ならば――。
「それに、馬鹿蜜柑…煌も選ばれたのか?」
「如月煌は…元々特殊素材だ。あいつだけ蛆に対して、他とは違う影響力がある。あいつは、真なる妖主として裏世界が隠していた鬼子。表に連れた秘密結社と結託し、制裁者(アリス)にして利用しようとした藤姫から奪った緋狭が、表世界で育て上げていたようだがな」
途端に、芹霞さんの口がだらしなく開いた。
「奴……ただのワンコじゃなかったの!? 生まれは裏世界のワンコ!?」
「まあ…表世界、裏世界ではその特殊な力を発揮出来ても、電脳世界はからっきし弱いらしいが…。極端過ぎる面もあり、ぎりぎり及第点というところだ」
朱貴の言葉に、芹霞さんと由香さんは揃って溜息をついた。
「「本当にもう一歩が足りない、残念なワンコだよね…」」
今更――
あの馬鹿蜜柑が、イヌだろうが蛆だろうが蛆の主であろうが、芹霞さん達のように大して驚きはない。
普通人とは考えられない程簡単に、難解なことを「お、出来た」などと言って、本能でやりのけているふざけた奴だから、人間以外の"その他"の分類において、全て同列だ。
未知数で言えば、私達の中ではピカイチだろう。
そんな馬鹿蜜柑のことは、あれこれ考えていても時間の無駄だ。
そんなことより――。
「妖主を作りたい秘密結社と、妖主となるための"黄衣の王"を作り出した裏世界、そして羅侯(ラゴウ)に敵対する"黄衣の王"の味方となる皇城…これらは繋がっていると言うことだな? それなのにどうして周涅は裏世界を攻撃した?」
様々な思惑は絡んでいるのだろうが、周涅の行動の意味が私はわからない。
私の質問に、朱貴は曖昧な笑みを浮かべた。
「周涅は皇城の意思のみで動く。皇城は、裏世界の在り方に賛同していない。一部利用しているだけだ」
「利用とは?」
私の質問に、朱貴のくぐもったような声が響いた。
「この世は、表世界、裏世界、電脳世界が互いに不可侵の関係で結ばれ、1つの…円環状の均衡が保たれている。各世界が保有する力は、3世界均等。羅侯(ラゴウ)の多大なる力に対抗するために、皇城は…3世界の均衡を崩すことを試みた」
「なぜ?」
私の問いに、周涅の治療ゆえに俯いたままに朱貴は言う。
「羅侯(ラゴウ)に対抗する力を得るために」
執拗に出て来るのは、羅侯(ラゴウ)という単語。
私は眉を顰めた。