シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「3つの世界の均衡が崩れ、どれかの世界が極端に抑圧されれば、その反動は…他2つにかかってくる。その反動力を利用しようとした。裏世界のように特定人物を救世主のように重宝するのでは無く、人を構成する世界の大きさを重要視した。そして目をつけたのが、未知数の電脳世界」
電脳世界がわかる人間は、僅少に限定される。
だからこそ、未知数。
玲様曰わく、人間如きが太刀打ち出来ない大きすぎる世界。
「反動で、逆に表世界が潰されないのか? 例え皇城とはいえリスクが大きすぎるような…」
電脳世界が人間の敵になる脅威は玲様がより体感され、日頃より、その恩恵を忘れ安易に扱うとしっぺ返しを食らうと、私達に警告を発していた。
朱貴は微かに笑った。
私の言葉を軽んじるように。
「もしも望んだ結果にならずに電脳世界から反撃を受けるのなら、一方的な力を消し去るように無効化するか、同じ力で返して攻撃された力を相殺すればいい」
朱貴は静かに私と視線を合わせる。
そこには温度がない。
「その力がなければ、力があるものを取り込めば良い」
ただ淡々と、事実だけを告げるのみ。
"無効"
「……久涅か?」
朱貴は、頷く代わりに言葉を追加した。
「それと、相殺の遺伝子を持つ、紫堂櫂」
櫂様……?
「だが無効と相殺は2つは必要としない。むしろ、2つがある限り、両者の力が打ち消し合う…弱点となる可能性もある。だから皇城は、父親である紫堂当主に託した。どちらかを選べと」
どくん…。
私の鼓動が脈打つ。
「そして選んだのは――…」
選んだのは――。
――俺について来い、桜。
「なによそれ!!」
怒鳴ったのは芹霞さんだった。
「だから…"選ばれなかった"櫂は、父親に殺されかけているって言うの!? 皇城の選択肢で久涅を選んだから!?」
「そうだ。選ばれたものは五皇に引き上げられ、優遇され…選ばれなかったものは、執拗により地下へと追いかけられるのみ」
紫堂財閥の次期当主として、表世界で脚光を浴びていた櫂様。
紫堂財閥の元次期当主として、悪評の中、居場所を失っていた久涅。
それが皇城の突きだした選択により、瞬時に逆転したというのか。
もしも当主が櫂様を選んでいたのなら、櫂様が黒皇になっていた可能性もあるのだ。
状況を考えれば、選択したのはつい最近のことではないだろう。
かなり前から、当主は櫂様を疎んじていたのは明白。
「絶対やっかみだよね、櫂への」
芹霞さんに同感する。
櫂様が芹霞さんのために完璧主義の姿になられたのなら、それくらい前から蓄積された…息子に対する嫉妬。
それまで紫堂を拡大したと褒め称えられた当主以上に、櫂様の功績は脚光を浴びすぎた。
そしてなにより若く、玲様という参謀にも恵まれ、未来への可能性が高い。
当主相手には抵抗していても、櫂様だからと傘下に加わった企業も多数あるならば、例え父親いえど、男としては憎しみにも似た心を育て上げていたのだろう。
だからこそ、櫂様を殺そうとまでしたんだ。