シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「改めて…ひどっ…」

由香さんのぼやきに、それまで黙って聞いていた七瀬紫茉も憤慨する。


「櫂の父親は最低だ!! だけどそれを強いた皇城もおかしいんじゃないか!? 皇城が紫堂を巻き込まねばよかったんだから。大体、羅侯(ラゴウ)だかに関係しているのは皇城だけだろう!!」


それも同感。

だが逆に考えれば――。


「紫堂を巻き込むほどに、例え皇城言えども…羅侯(ラゴウ)の力を脅威に思っている、ということです」



私が言い終わる前に、朱貴の目が私の視線からそれ、憂いを帯びた目は伏せられる。


「周涅も翠もそうだけど、そこまで羅侯(ラゴウ)っていうのは凄いのか?」

「紫茉ちゃん、あたし…皇城っていう集団が妄想狂の心配症に思えるんだよね。皆でよってたかって、羅侯(ラゴウ)羅侯(ラゴウ)言うけれど、あたしなんて"羅侯(ラゴウ)の復活? なにそれおいしいの?"っていう感覚で、いまだ全然リアル感も危機感もないし、なんでそんなに皇城が騒ぐのかてんでさっぱり。紫茉ちゃんはどう?」

「実はあたしもなんだ。翠も羅侯(ラゴウ)のせいで妖魔が出るから、それだけでも悪い奴といつも騒いでいたけど、あたしには妖魔すら見えないし。由香は?」

「ボクもそうなんだよね。価値観の相違? 平和ボケしすぎてるの、ボク達」

「うーん、ゾンビや蛆や化けネコ慣れしたあたし達が果たして平和的だったと言えるのかわからないけど、世の実情考えてみたら、ここ最近の流れでは、確かにその羅侯(ラゴウ)の名の元に黄幡会も動いて犠牲者も増えすぎよねぇ。だったら、復活しようがしまいがここまで振り回されている以上、全ての諸悪の根源は羅侯(ラゴウ)という存在――」


その瞬間、朱貴の眉間にきゅっと皺が寄り、苦しそうな表情になる。

それに気づかず、芹霞さんがそれ以上に苦しげな顔で考え込んで、声を漏らす。


「ねぇ…本当に、その羅侯(ラゴウ)っていうのは悪い神様なの?」


芹霞さんが腕組みをして、首を傾げる。


「黄幡会は羅侯(ラゴウ)をいい神様として崇めて、皇城は悪い神様として復活させまいとしているんだよね。対立しているのに、どうして皇城は黄幡会を潰させないんだろう。黄幡会の規模はかなり大きくなって、より怪しくなってるのにさ。一縷、計都だって裏ありそうだし。皇城って、紫堂より権力があるんでしょう? だったら周涅なんかが、ぷちっとやっちゃってもいいじゃない」

「そうだよな…。翠も不思議がって周涅に聞いたことがあったが、周涅は笑って誤魔化して教えてくれなかったし。翠レベルには秘密の、なにかがあるのかも…」

「ボクも釈然としないよな。黄幡会がお祭りで羅侯(ラゴウ)を復活させるとか言っているじゃないか。復活させる祭りなんて、どうして野放しにするんだろう。だって復活させないようにって、こんなに大それたかなり酷いことしてるじゃないか。周涅の自分勝手な言い訳なんか、皇城の"正義"に陶酔した感じあるし。黄幡会潰しは正義に反するの?」


三人は答えを朱貴に求めて、じっと彼を見つめていたが、朱貴は何も言わずに切なげな眼差しで、その視線を跳ね返すだけ。
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