シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「羅侯(ラゴウ)は悪い神様なのかなあ、それとも違うの?」


三人の視線が私に来る。


「え、私に聞いてます?」


「うん。葉山が言うのは、きっと正解だよ」

「そうそう、桜ちゃんは頭いいもん」

「桜、羅侯(ラゴウ)は悪神か?」



唐突に矛先を変えられた私は、思わず仰け反った。


与えられた選択肢は簡単だ。

善か悪か。

しかしそれを私の意見ではなく、"正解"と断定することにためらう。

判断に自信がないからという理由ではなく、概念上であってもなくとも、人を超越しているとされたものを私如きの善悪で判断していいのか…それが無性にひっかかるのだ。

私は無神論だ。

だから羅侯(ラゴウ)を信じる黄幡会とは反対の立場。


だが皇城や黄幡会のように羅侯(ラゴウ)の善悪を気軽に口にしたくないのは、そこに客観性を持たせるだけの材料がないのも一因だが、更にそれが正しいか正しくないかなど、誰が決められるというのだろう。


誰にも真実なんてわからない。

わかるのは、神とされる羅侯(ラゴウ)と同じ地平に立てる者だけだ。


残念ながら私は、その域にはない。


しかしきらきらとした目で私の答えを期待している女性陣に、そのわだかまりを告げてもわかって貰えるだろうか。

……見るからに落胆するか、わかってもらえるのに時間がかかりそうだ。


「か、……櫂様達はなにを話しているんでしょう。あんなに酷かった嵐は止んだようですが…」


無理矢理変えた話題は、とてもわざとらしくどもってしまったけれど、丁度映像は変化を迎えたタイミングがいい時で、皆の視線は自然にそれてくれたようだ。


「なあ芹霞。櫂が、黄色い男を指さして、すごく興奮しているよな。煌が後ろから羽交い締めして、止めているが」

「なにがあったのかな、あ、鼻タレのハゲネコ様が黄色い外套男を庇うように……あっちを庇ってるの? しかもなんで櫂、ハゲネコ様に従順になって、興奮鎮めたの? え、いつハゲネコ様の下僕になったの!?」

「音声がないのは痛いよ~。ここはhiPhoneの画面でもいいから音声を……」


そんな女三人のぼやきの中、私は櫂様達の唇の動きを読む。


櫂様は、あのクオンを…"緋狭さん"と呼んでいる。

馬鹿蜜柑も間違いなく、"緋狭姉"と呼んでいる。


煌に対しての優位性を示す白ネコ。


櫂様が敬意を示しているあの白ネコは――


「あのネコ、緋狭様なのか…!?」
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