シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その声に反応したのは、私以外。
「え、桜ちゃん。なんでお姉ちゃん? 無理ありすぎ。あれはどう見ても久遠だよ!? 自分でクオンという名をしたんだよ?」
「そうだよ、葉山。あの着地失敗する残念ニャンコが、どうして姉御なのさ!! 今までのあのやる気のなさ!! 神崎ばかり懐くあのわっかりやすさ!! あれはどう見ても久遠じゃないか!!」
「あんな、お笑いネコが芹霞のお姉さんとは…」
緋狭様と呼んでいるのが馬鹿蜜柑だけなら、いつものように馬鹿さ加減が暴走してとち狂ったものだと納得できるものの、櫂様まであのネコを緋狭様の名で呼んでいるのであれば、それは笑いごとではない。
櫂様が言うのなら、あれは緋狭様なのだ。
その要素がまるで見当たらないにしても。
白ネコの口の動きからは、緋狭様だと確証できる言葉を私は見いだせない。
……人の言葉を話していたらの話。
私は、ネコ語はわからない。
「ねぇ凄く櫂、あの黄色い外套男を睨み付けているけど…」
「あの男もなにか言っているのかなあ…。仮面だからさっぱりわからない」
「うわ、今度は煌がキレた? 偃月刀で黄色い外套男に……」
目の前では、櫂様を制する側に回っていた煌が、突如偃月刀を男の首元に突き刺そうとする。
逆に櫂様に止められるのは想定内であったにしろ、飛びはねたあのネコが本当に緋狭様であったのなら、足で煌の頭を蹴った上に髪を引っ張ったことに対し、煌があのネコを無意識にでも切り捨てずに、逆に恐れたようにぎゃあぎゃあ騒ぐのは当然のこと。
それが目の前に起こっているのなら、やはり煌はいつも通りの馬鹿で、裏世界でも姿を変えた緋狭様に怒られているということになる。
……懲りずに。
全く成長なく。
妖主など…ご大層な肩書きが泣いている。
だが気になったのは…それからの櫂様の口の動き。
それは私の知る名前を口にしていた。
驚く馬鹿蜜柑が、黄色い外套男を指さし、櫂様に何か叫んでいる。
煌の頭の上に居座る白ネコは、満足そうな笑みを浮かべている。
私の見間違いに違いない。
行方をくらませたあの男が、あんな格好をしているはずもない。