シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「あの男は…本当に味方なのか?」
私の声に、朱貴が呼応した。
「今は」
秘密主義の朱貴は、なぜか今はそれを返上し、聞いたことに対してではあるが、きちんと答えてくれる。
その心境の変化はなんなのだろう。
「なんであんな格好を……」
「それが生きるために、必要な手段だったということだ」
なんでもないように朱貴は言う。
どうして朱貴は、彼のことまで知っているのだろう。
朱貴は一体どこまで知っているのだろう。
「だけど…一体どうして、いつからあの世界に……」
「裏世界に助けられた者は、裏世界は…その住人は再訪問を拒まない。むしろ、裏世界という世界を確立するために、秩序を乱すものを排除する"黄衣の王達"には敬意を示す。
ただ如月と"あいつ"は、特殊だ」
「特殊とは? 妖主とやらはふたりいるということか?」
七瀬紫茉の質問に朱貴が、溜息交じりに答える。
「真なる妖主は如月煌ひとり。俺の言う特殊性は、生命維持装置をつけていないこと」
ああ、やはり朱貴はあの男を知っている。
あんな格好をしていても、正体が誰か。
それは多分に、櫂様の動いた唇の動きが示す人物と同じ。
ちょっと待て。
そう考えれば、私が今まで会ってきた黄色い外套男は、あの男だったのか?
それとも、別にまだ居る"黄衣の王"のひとりだったのか?
もしあの男だったというのなら、前提が崩れてしまう。
目を抉る黄色い蝶に敵対するのなら。
私達の行く先々に現れていたというのなら。
それが故意的だとしたら――
私達が蝶の被害にあっていないのは、あの男のおかげ?
嘘だ。
まさか!!
だったら、奴の行動の意味はなんだ!?
なにが真実なんだ?
蝶が目を啄むことで、隠されていた真実の姿に還そうとしているのなら。
私が目で知ったものは、真実か否か?
わからない。
だけど、櫂様が激昂していた理由であるのなら。
ああ、遠い処で朱貴の声が聞こえる。
あの男は――…、
「如月煌と、久涅は」
紫堂久涅、なのか。