シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

譲歩 煌Side

 煌Side
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「お前は榊ではなく――

久涅、か?」


黄色い外套男に向けて、突如櫂がそう言った。

強張ったその顔で。



「おい、櫂!!? 久涅って…こいつはどう見ても…」

「砂嵐を消したことといい、なによりこの気は――久涅のものだ」


俺の言葉を打ち消すように、不気味な程に抑えられた声。


櫂はなにを言っている?


目の前には、不穏な黄色。


榊といい、芹霞といい――

全てはこいつが現れて、事態はおかしくなった。


芹霞と玲と七瀬だけが見える黄色の蝶が飛べば、傍らにはこいつもいる。

そして俺は、この格好で人の首を刎ねていたという。


俺達が目にする外套男の正体――

櫂の口から、榊という名前が出て来るのも驚いたが、更には続けて口にした名前。


黒皇だという久涅が、

櫂を殺そうとしたあの久涅が――


「ほう、気づいたか、坊」



緋狭姉が許容する、"協力者"!!?


「ありえねぇ…ありえねぇって!!」


耐えきれず俺は怒鳴った。


久涅が櫂に協力するってことも、

久涅が黄色い外套男だったということも。


「なんで、よりによって久涅!!?」


一番、外套男の正体としてしっくりこない奴じゃねえか。


「この正体が仮に久涅としても、元々緋狭姉、久涅に対して傅(かしず)いて、俺達に敵対したんじゃねえか。まさか、最初から俺達騙して密かに手を結んでいたって!?

まだ、黄色繋がりしてる…黄皇だという小猿の兄貴だといわれた方がしっくりくるよ。久涅だなんて、緋狭姉がニャンコに生まれ変わったということなみに、信じられるわけねぇよ!!」


「――煌」


白ネコが俺を見た。

その目が、ますます真っ赤になったかと思うと、


「私は死んでいないと言っているだろうが!!」


研ぎ澄まされた爪が、鎌鼬(かまいたち)化して俺の服を裂く。

やべ…緋狭姉、ブチ切れてる!?


ほとんど反射的な逃げの姿勢になっている中でも、俺の本能は感じている。


風使いの櫂でも消せない砂嵐を消せたこと。

櫂の言う通り、自らの気配を"無効"化できる、その特異な気配。


それは紫堂久涅のもつ特有のものだ。


もうなにがなんだかよくわからねえ。

久涅ではないと否定できる証拠が、なさすぎて。
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