シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「俺達を導くためにその姿になった貴方が、あくまで久涅を五皇として"協力者"に選んだという事実、俺は見過ごしていました」


櫂の端正な顔が、固い意志によって私情を隠している。


「この世界の滅亡は、五皇を縛る黄の印に影響が出るものでもあるんですね。あるいは、皇城雄黄にとって有利になる…。だから雄黄の腹心、周涅が動いた」


そこまで考えてねえ俺は、ぽかんと口を開いた。


「私心はどうであれ、久涅は"五皇"として…紅皇に同調した。だから今、周涅の敵対側にいる。そう思うようにします。ならば俺がとるべきことはひとつ」


瞬間、櫂はくっと唇を噛みしめて久涅に言う。


「俺はまだ死ぬわけにはいかない。俺を、いや俺達を……」


そして櫂は頭を垂らしたんだ。


「助けてください、兄上」


櫂にとって屈辱的な言葉を口にしながら。

プライドを傷つけられても、芹霞をやるということを許さなかった。

それに対して、白ネコが小さくニャアと鳴いた。


満足そうで不機嫌そうな…なんだかそれは久遠の表情にも思えて、こんな時だというのに、なぜか笑えた。

そちらの方で笑わずにはいられなかった。


…あまりにも、櫂がかわいそうすぎて。

…あまりにも、俺が無力すぎて。



一触即発のほどの緊張感漂う場だった。

櫂も俺も我を忘れて久涅に戦いを挑んでもおかしくない状況。


「俺達には、時間がない」



それでも櫂は忘れていなかった。


時間は俺達を待たないことを。

この間も、必死になっている奴がいるということを。



皆、すべきことをしている。

だから櫂にとって、久涅に助力を乞うことも、すべきことのひとつなのだろう。

たとえ緋狭姉の頼みだからと言って、久涅だって櫂を前にタダでは動かない。

生い立ちを含めた憎悪は、並大抵なことではねえから。


きっとそれも緋狭姉は見越していた。

そして緋狭姉も、櫂を試していたのだろう。


以前のように、泣いて騒いで現実逃避するのか。

緋狭姉が裏世界に送り込んだ意味はあったのか。


なにより――


――この世界を救おうとする指導者。


それを緋狭姉が櫂に求めていたのなら、その適性も確認したかったに違いない。



指導者の素質。


私情を超えて、なにがベストの選択なのか、冷静に柔軟に現実的に判断出来るのか。

犠牲を最小限にとどめる方法はなんなのか。


なにより――

久涅が言い出したことなんだ。

頭を下げて、助けを乞えと。


その難問をクリアした櫂に与えられるのは、


「ちっ……」


約束された報酬。


ここには緋狭姉という立会人もいる。



「さあ、久涅。約束は果たせよ?」


俺は櫂の代わりに、不敵に笑った。







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藤宮より


あけましておめでとうございます。

昨年は応援頂き、ありがとうございました。

今年もよろしくお願いいたします。


実は昨年末から家族全員、ローテーションで風邪をこじらせて肺炎になったりと、プチ入院しておりまして、また更新が滞ってしまいました。ファンメなどご挨拶もできず、新年を迎えてしまい、すみません…。

今は退院していますので、また更新していきたいと思います。

皆様もお風邪&悪化には気をつけてくださいね。


2014-01-04
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