シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


耐えがたい怨恨を櫂が押さえて、久涅には押さえることができないならば、それは黒皇としての沽券にも関わる。

プライドの高さゆえに、自ら緋狭姉との打ち合わせ通りに、櫂の目の前で櫂を助ける役目を果たさねばならなくなった久涅。

緋狭姉との約束ゆえに嫌々するではなく、自ら言い出した…"弟を助ける"ことをしないといけなくなった。


それは屈辱だろう。


だが、いい気味だ…とはいえない妙な気分はなんなのだろう。

"約束の地(カナン)"で会った時とは違う、妙な空気を感じたんだ。

仮面越しだから、はっきりとした変化はわからないが、それでも違和感を感じるほどには。


不遜さは変わらないが、なにか弱っているような…。

あいつらしくなく、人間的とでも言えばいいのか…。


俺達が裏世界にいる間に、なにか心境の変化でもあったのだろうか。



「五皇の履行……」


俺がそんなことを考えている間、櫂が難しい顔をして呪文のように唱えていたようだ。

何かを思い出すように。



「それは、黄皇との…」


緋狭姉は、櫂の肩に飛び乗り、手をぺろぺろと舐める。

ああ、くそっ。

緋狭姉なのに、この愛らしい仕草に癒やされちまう。



「黄色い蝶に誘われ、あそこより漏れ出る電脳世界の力は久涅が押さえよう。だが別の場所が裂ける可能性もある。今はひとまず、塔の…玲の元に。私に考えがある」


言葉は緋狭姉だが、やっている仕草はニャンコ。

しかもよく見れば、腹あたりが三本線にハゲている。


わかっているのかな、突っ込んだ方がいいのかな。


じいっと見つめていると、


「ネコにまで発情するな、駄犬!!」

「だ、誰が発情……」


無実の罪を着せられた俺は、ハゲを指さして櫂に援軍を頼む。

しかし櫂はバツの悪そうな顔をして、話題を変えてしまった。


「走りながら話を聞きたいのです、緋狭さん。なぜ裏世界が壊れれば表世界にも被害が及ぶのか。表世界と裏世界、そして電脳世界の関係を」


櫂の肩に居座り、自分で走ろうとしないだらだらニャンコは、嬉しそうにふさふさの尻尾を大きく揺らす。

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