シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
ただ0と1で織りなす電脳世界は、"個体"の概念がないらしい。
だから、人間のように増殖…子孫を残すことができない。
せいぜいできるのは、複製(コピー)だけで、あとは突然変異だとかいう…"奇跡"を待つしかねえ。
――人工生命というものも、所詮は人間が作り出したもの。電脳世界の力を人間世界で説明し、制御しようとしたもの。電脳世界には不要な理論だ。
延々と続く0と1の組み合わせ。
進化の概念がない電脳世界で、突然変異という奇跡が意味がないのなら、ただ0と1が延々と続く、無機質な世界。
だからこそ、人間には不可解である世界。
玲に聞いてみたい。
0と1が無機質ではなく、意思があるのだというのなら。
玲の親父が求めたように、人間世界の奇跡をも計算できる高い計算能力があるというのなら。
電脳世界はなにを望んでいるのだろう。
人が電脳世界を使って奇跡的な進化を遂げたいように、電脳世界は人間界を使ってなにかしたいことはないのだろうか。
電脳世界は、人間を格下に見ているのだろうか。
どの世界も一長一短。
どこか歪な世界が支え合ってできていた、ひとつの輪。
――互いが必要以上干渉しない…いわば独立した体制をとることで、場所は違えど1つのものとして均衡を保っていた世界が、皇城によって崩されつつある。
皇城は、1つの世界を不自然に抑圧することで、他の世界に影響を及ぼすその反動力という力を手に入れたいらしい。
とりわけ、限界がわからない電脳世界の力を。
だから電脳世界を怒らすようなことをして刺激して、裏世界を壊すことで、さらに不可侵条約みたいな3世界の"ルール"を取っ払い、自由に電脳世界の力を使おうとしているらしい。
「羅侯(ラゴウ)に対抗するために」
緋狭姉は、そう言った後、ニャアンと弱々しく鳴いた。
「緋狭姉…」
俺は言わずにいられなかった。
やはり気になるものは気になる。
ハゲの次にだけれど。
俺は真剣に言ったんだ。
「緋狭姉、普通に――
ニャンコ語が混ざってきてるぞ?
だらだらニャンコ化、し始めているんじゃないか?」