シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
それは消えた式神だけが知っていたとしたら?
それもあって、自ら命を捧げた…とも考えられるけれど。
あの式神は、すべからくその存在を消したわけではないらしい。
消えたのは、櫂達と行動に共にした…それまでの式神の"心"だけ。
――ゴボウちゃんは、術破りのために、石碑を守ろうと…俺に忠実な小さな体だけはおいていってくれたんだよ。かなりボロボロだから、すぐにしまった。…形はゴボウちゃんでも、今までのゴボウちゃんではないのがわかるんだ。なんだか切ないね。
あの式神が消えた瞬間とスクリーンが消えた瞬間は差違がある。
関係あったともいいにくいのが現状。
裏世界には"犠牲"は必要なかったのか、それとも翠が符呪によって呼び出した式神の"想い"は"犠牲"とみなされなかったのか。
もしもやはり"犠牲"は必要で、九星の陣を強行した術者の周涅が…いやあの術自体、その"犠牲"に同種の式神を認めていなかったら、現実問題――
まだ九星の陣は消えていないということになる。
その危惧を抱えて推察を進めれば。
周涅が術に求めている犠牲がどれだけの規模かわからなくなる。
スクリーンに飲み込まれたここの住人もいるだろう。
それを式神同様、カウントしないのだとすれば。
そこから新たに見えてくるものがある。
この世界の住人もまた、誰かによって"作られた"可能性があるということ。
魔方陣がなくては生きられない可能性を示唆していた櫂達の、裏付けともなりえる。
だとすれば――、
この世界は第二の"約束の地(カナン)"じゃないか。
奇しくもそれは、周涅の術なしでは思い至らない可能性なんだ。
僕も櫂も。
周涅はなんのために、表世界と裏世界、ほぼ同時期に九星の陣を敷いた?
表世界には石碑はなかったけれど、どうして同じ術でなければいけなかった?
そう思いながら、僕は睦月の動きを見つめていた。
なにもない空間に飛び出るタッチパネル。
それを指先で簡単に操る睦月。
まるで映画の世界。
「この塔は一体…?」
睦月が、口元の黒い布をとって教えてくれる。
肉感的な唇といい、なかなか美しい女性の横顔だ。
「裏世界の管制塔さ。この塔からの"力"によって、外部からの…例えば電脳世界からとかの攻撃を防いでいてくれるんだ」
「なんで電脳世界が、裏世界を?」
「そりゃあ――」
関連性がわからない僕は首を傾げて睦月を見上げたが、振り返りざまに弾んだ睦月の胸が邪魔でその顔がよく見えなくなったため、翠の肩によじのぼる。
「そりゃあ、裏世界が勝手に電脳世界の力を引き出しているからさ」
睦月は屈託なく笑う。