シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「おばあちゃんが言うには、表世界、裏世界、電脳世界には、これ以上は互いに干渉してはいけないという最低ラインがあるらしいのさ。そこをイレギュラーにちょいと動かして、この塔は作られた。だからこそ、この裏世界では、表世界では助からない者達を生かしてられるんだ」
僕は――
人工生命を思い出す。
だが睦月は、どう見ても肉体を持つ人間だ。
「電脳世界の力で…となれば、電気…機械をつけているとか?」
例えば延命装置。
例えば肉体の欠損を補助したりと、機械の担う対象は想像にたやすい。
「正解。私は機械なんてちんぷんかんぷんだけれど、それ専門の奴らが塔にいるからね。その機械の力のおかげで、表世界では医者が匙を投げたような者も、ここで数日いたら、命を得て元気に生きている」
"ここで数日いたら、命を得て元気に生きている"
正直、そこまでの回復は想像していなかった。
表世界の重篤者なら、集中治療室から一般病棟に移り、退院するまで数ヶ月単位となる。
肉体の機能を失った者なら、リハビリ効果が出るまで数年に及ぶこともあるだろう。
それが数日で、元気になる?
「表世界の最新医療技術以上のものがあると?」
「ああ。ここにいれば、表世界よりも長生きできるらしいよ」
そこまでの技術がこの世界に?
その事実を受け入れるよりも、どうしても僕は、"作られた"可能性と結びつけて考えてしまう。
その技術は、単純に命を救うためだけが目的だったのか、と。
本当に命が救われていたのか、と。
「……ねえ、私の性別はなんだと思う?」
突然、不思議なことを言い出した睦月。
どうしても目に飛び込んでくる大きな胸や、その姿態はどう見ても…。
………。
「え…まさか、女性じゃないの?」
「ふふふ、そうか。女だと思ってくれたんだね。そうだよ、私は半陰半陽。表では嬲られ続け、金持ちのいい慰み者だったよ。愛玩動物としてね」
睦月の顔によぎる、憎悪のような暗い影。
「最後の"飼い主"が鬼畜でね、幼女を切り刻んで食べる嗜好があった。幸か不幸か私の体には、男性器がついていたからね、中途半端に体を刻まれてさ……」
そして言う。
「その時、おかしな力で相手の男を"酸化"させ、気づいたらこの世界。今とは違う荒くれだったひどい世界だったけど、おばあちゃんは優しくてさ」
「本当のおばあちゃんなの?」
「どうでもいいのさ、そんなこと。私は私を守ってくれる親がいない。だけどおばあちゃんはいたんだ。…あはは、お前は孫みたいなものだとおばあちゃんが言ったから、ずっとおばあちゃん。煌よりは、他人なんだろうけどさ」
僕は目を細める。
「そこになんで煌?」
「おばあちゃんが言うには、あいつと私は幼なじみらしいよ。おばあちゃんは煌の親を知っているみたいだけれど」