シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
煌の生い立ちを、簡単に睦月から聞いた。
なんでも煌は、蛆というよりは…蛆神という崇められる存在らしい。
そんな煌の存在が、この世界に櫂とともに受け入れられた要因のひとつでもあるのだろうが、おそらくあいつなら、蛆というイメージにずんと落ち込んだろう。
オレンジ色の蛆…。
なんだか気色悪い…。
その時、翠が耳元でささやいた。
「ワンコの髪の色、喧嘩したこの睦月に酸化させられたせいらしいよ。元々は黒だったんだって」
………。
僕は、かつて煌が黒いカツラをかぶったことを思い出す。
派手な色が陰った途端、男として意識始めた芹霞。
それに煌が気づかなかったのは、奇跡的。
そうか、あいつの髪は天然ではないんだ…。
ナイス、睦月。
同時に思う。
睦月を怒らすことはやめよう。
僕の髪があんな色になったら、僕…生きていけない。
「私が"女"としてやっていける場所は、多分ここしかない。だけど夢見てしまうのさ。太陽の光を浴びて、女の恰好して歩けたら。そして短命でもいいから、好きな男との間に子供が作れたらって」
力なく、睦月は笑う。
「無理な話さ。裏世界の連中は、長く生きられるけれど…子孫を残せない。女には皆…子宮が役立たずだからね。私も含めてね。どんなに女になりたくても、そこは無理だったらしい。形だけの女で我慢するしかないんだよ」
「………」
「子供が残せるのは、裏世界からの脱走者だけ。表世界の女と交わらないといけない」
「いるのか、そういう前例が」
「ああ。それが煌の今の家族らしいね。おばあちゃんが言うには、脱走したあいつの監視役として接触したらしいけど」
今の家族…?
「紫堂玲。芹霞の親父さん…裏世界出なんだって。」
「なんだって!!?」
だから娘の緋狭さんは、制裁者(アリス)の煌を気にかけていたのか!?
翠が知っているということは、櫂も知っているのだろう。
あいつは…どう思ったろう。
「おおっと…着いたようだね」
ドアが開くと、またもやガラス。
再び、睦月はなにもない場所で指先を動かせば、認証番号を押すタッチパネルが現れた。
"約束の地(カナン)"を思い描いていたからか、どうしても…"約束の地(カナン)"での"魔法"を彷彿せずにはいられない。
あの魔法は、"約束の地(カナン)"を支配していた人工知能…"電気"で統制された世界だから可能になった。
それを可能にしたのはレグこと白皇。
そして人工知能の、レグへの愛故の暴走。
電気がひとつの意思を持ち、そしてなにもない"0"から"1"を作り出した。