シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
発現を可能にするのは、特殊な0と1の組み合わせ。
それは呪文のような詠唱なしに、指で宙に"刻む"ことで発動出来る。
言霊の力は不要だが、ある種"布陣"の力を借りて発動出来たその"魔法"は、当時あそこに住まう者達は、呼吸をするように自然にそれを作り出すことができた。
つまり、意識と電気信号のシンクロ。
ある意味、僕と同じ系統の力。
ただそれは、人によって火、水など"属性"が決められていた。
属性を決定づけるものはなにか今もわからない。
僕は雷属性、櫂は風属性、煌は火属性…それをぱっと思うのは、僕達の力ゆえに。
人間は、ひとり一属性。
そうした固定観念は、翠によって覆された。
符呪を使うとはいえ、彼は多種の力を発現出来る。
翠が特殊なのか、人は元々あらゆる力を秘めているのか。
0と1を結びつけるものが、属性に対応した特殊な符呪や布陣だというのなら。
そうして0と1の組み合わせを自在に作れる人間が、それを使うのなら。
どの場所でも、"魔法"は可能になる。
なにもない空間から、誰でも簡単に物質は発現できる。
しかし、0と1の言葉を理解できる由香ちゃんは、それができなかった。
レグの機械を解析していたはずの僕も、そのデータにあった符呪や布陣を模しても、電気以外の力を発現できなかった。
"約束の地(カナン)"とここに共通するものがあり、僕が表世界で見落としていた者があるはずなのだが…。
「あれ…パネルが認識しない」
睦月が眉間に皺を寄せて、青白く浮かび上がっているテンキーの上をせわしく指を動かす。
「おかしいな。こんなこと初めてだ」
僕は、翠の肩からそのパネルを見下ろした。
間違いなく、このパネルは電気で構成されている。
純粋な0と1。
あれだけ外部が虚数にまみれていたというのに、塔の内部は虚数の浸透は見られない。
ガラスという素材は絶縁体だ。
電気も熱も通さない。
外部の虚数に染まらないのは、ガラスの特質ゆえの防御となっても、内部でこうして自在に電気を活用出来る仕組みがわからない。
「乱数……」
0と1が通るのなら、ある程度僕にも初見にて、どんなプログラムが走っているのかはわかる。
「13桁の乱数だ」
医療といい、設備といい…表世界を凌駕できる最新技術を持ってして。
それでも管理するのは、人が編み出した古来からのセキュリティー。
そこには誰かの"思惑"が感じられる。
つまり裏世界には、表世界からの来訪者がいる。
これを作ったのは――。
三沢さん…?
それとも――。
「僕の父か…」
どちらなのかわからないけれども。