シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
表世界のプログラムが存在するのなら、僕が解析できないわけはない。
13桁の乱数に正解を導くしか。
しかし僕だけの知能では、億にも渡る組み合わせを考えるだけでも、途方もなく時間がかかる。
「どうする、紫堂玲。いい方法ある?」
故意的に13桁の乱数に切り替えた理由を想像すれば、この奥は今、やばいことになっているのだろう。
ならば正解に時間に費やすよりも、
「僕達を弾き出すのが電気の力なら――」
もっと短期間ですぐに答えを出せばいい。
「僕がなんとかすればいい」
僕達を向こう側のマイナスに弾こうとするのなら、僕はそれをプラスに合わせるまで。
プラスマイナスゼロ。
そうすれば、電気の…プログラムの抵抗は相殺されてなくなる…はずだ。
僕には13桁の乱数など必要ない。
押し返す電気の力と、同等の電気の力を向ければいい。
虚数のように未知なるものに恐れながらではなく、
慣れ親しんだ感覚にただ自然に合わせればいい。
大丈夫。
僕は、君達を刺激しないから。
だから落ち着いて。
僕を信じて。
僕の力を受け入れて。
――キャハハハハハ。
……どこかで子供の笑う声がした。
途端――
「開いた!!」
解錠されたドアに進む僕達は――。
「なんだよ、あれ!!?」
ちょうど空間の裂け目が作られた場面に出くわしたんだ。
何もないはずの空間に、歪むように剥がれるようにして出来たような、異質な縦の線。
その亀裂から滲み出るのは、淀んだ黄色。
それは――。
「黄色い蝶!!?」
叫んだのは、僕と翠。
「翠も見えるの!!?」
「私は見えないよ!!」
「僕も見える!! よし、吉祥ちゃん出動!!」
詠唱直後、まばゆい光に出てくる桜そっくりの式神。
光に満ちた黄色い蝶は、その光を吸収して煌めいた。
その光で、睦月も位置を確認できるようだ。
黄色い蝶は、こうやって空間を食い破って現われていたのか!!?
どうもなんだかいつもと様子が違うことを感じながらも、この場が危険であることは変わらない。
黄色は光に押されて薄まるが、それでもあとからあとから亀裂から増える。
これは時間の問題かもしれない。
「睦月!! ここは危険だ。他の皆に外に逃げる合図を!!」
「ここに集めなくてかい!?」
「黄色い蝶があちこち出てきたら、固まっていた方が一網打尽にされる。ならば警告を!!」
「わかったよ!!」
睦月が反対側に駆けていく。
吉祥の力が、亀裂から光を押し込む。
翠の力と蝶の力の持久戦と行った処だ。
僕は翠の肩から飛び降り、奥の部屋へと足を踏み入れた。
そこには慌ただしく動く三沢さんと、
「………」
死んだはずの、僕の父がいた。