シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
三沢さんも、父であろう…僕によく似た男も、ちょこんと床に立つ僕には気づかないらしい。
多くの機械を少し触っては別の機械に飛び移るように操作している。
その顔はひどく真剣で、汗ばんだ髪は乱れていた。
声をかけていいのか、悪いのかわからない。
再会を喜びたいと思えるのは三沢さんだけだったが、彼とも気軽に喜び合える状況にない。
毛をとった、美形の三沢さん…。
前例を知らねば、誰だかわからない男性だ。
そして僕の記憶する面影のまま、老けているのか若いのかわからぬ曖昧な輪郭を見せているのは、間違いなく僕の父だろう。
いつもいつも酒に溺れていて、男として最低だと母に教えられていた僕にとって、ここまでこの男がとる真剣な表情はあまりに意外すぎて、別人かと一瞬思った。
だが、どんなに否定したくとも、わずかなりとも引き継いだ僕の血が共鳴する。
ああ、今の僕はリスなのだから、体に同じ血は流れていないのだとすれば、今ある僕の意識の…心に共鳴しているのだろうか。
否定しがたい"遺伝子"が、伝えているのか。
これは父である、と。
それでも感慨はない。
悲しいほどに、なにもない。
疼くものがあるのに、ただそれだけ。
僕の心は冷え切っていた。
そのことに僕は…悲しくなる。
実の父を目の前に――
僕はここまで、父を見捨てていたのかと。
父に見捨てられた僕は、同時に僕自身も父を見捨てていたんだ。
だから僕は、彼らに声をかけられない。
三沢さんにだけ声をかけても、同時に振り向くだろう父の反応を見て、さらに冷え切るだろう心を自覚したくないから。
ドウシテココマデサビシクオモウノダロウ。
そんな迷いもあって、僕は正面の多くのモニターに映されている、結果を返す0と1の羅列を読み解く。
睦月はこの塔は、電脳世界からの攻撃を防御していると言っていたけれど、確かに、なにかから抵抗しているのはわかった。
だがその抵抗力は落ちているようだ。
僕は、本筋のプログラムを表示しているモニターを眺めた。
そこに三沢さんも父も、追加のプログラムを入れて、随時補強しているらしい。
だが僕からしてみれば、細かいところが重複している無駄なプログラムが多すぎる。
難しく考えすぎて、かえって複雑化しているプログラムのように思えた。
そこにふたりの人間が付け足し続けるプログラムで、さらに処理能力が奪われている。
もっとプログラムをひとつにスリム化することに時間を裂いた方がいいのに。
削った分の力を、別の防御に回せるだろうに。
わずかな時間のロスが、やがて積もり積もって…空間が裂けて黄色い蝶まで出現するような、今の事態を招いているように思えて仕方が無い。
だから思わず僕は、言ってしまったんだ。
「別のプログラムで余分なものを排除するようにして繋げば、攻撃を受ける間もなく、処理速度も遙かに向上するのに…」
その声に、ふたりは振り向いた。