シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
僕に急かされるようにして、三沢さんがひと通りの操作を終えると、機械の読み込む音が早くなった。
「うぉぅ、処理速度が格段に向上した!! なんだこの快適爽快音!! さっきまで時間経過と共に重い音をたてていたのに!!」
「三沢さん、結果良好だね。新生プログラムがリセットされるまで、数十秒は待たないといけないけど。その間は、三沢さん達の暫定プログラムが時間稼ぎして頑張ってくれるようにしてあるから」
僅かな停止時間も見逃していない。そこらへんは手を打ってはある。
ただ危惧すべきは、この機械群がどこまでのスペックがあるのか。
仮に0と1が豊富にあっても、それを統制するのがプログラムや機械である限り、その機械の機能のよしあしに左右される、物理的な問題となってくる。
僕のプログラム追加でも、別世界からの…電脳世界からの攻撃防御に間に合わねば、あとはプログラム自体を全て別の観点で書き換えるか、処理する機械を変えるかしかなくなってくる。
そこまで追い詰められる前に、なんとか勝負がついて欲しいけれど。
そんな時、ガランガランといううるさい鐘の音が鳴り響く。
睦月の合図だろう。
「あのさ。し、白き稲妻……だよな?」
鐘の音に少しかき消されそうになりながら、三沢さんの声が僕に向く。
「勿論そうだよ、久しぶり。"約束の地(カナン)"から、無事でよかったよ」
"勿論"を強調した僕は、笑顔で三沢さんの肩に飛び乗り、三沢さんの毛のないつるつるほっぺを手でぱんぱんと叩けば、三沢さんはくすぐったいというように目を細めた。
「ど、どうやってここに……。いや、なんでリスに……。少なくとも、スクリーンが出てきた時は、あのリスだったよな!?」
「その後、表世界から僕の意識をデータ化して、転送したのさ。協力者のおかげでね」
「な、なにを簡単に!! それができれば、俺だって…"気高き獅子"や"暁の狂犬"だって、もっと簡単にここに……。いや、簡単に来れるようであれば、意味はないな……」
なんとも複雑そうにぶつぶつと独りごちている三沢さん。
僕は少し息が上がっていたから、休憩を兼ねて彼の肩の上にちょこんと座った。
あれだけ特訓してたのに…後半、結構キツかった。
体が小さいから余計、たかがプログラムひとつ組むだけでも、かなりの疲労度になるらしい。
心臓にこたえないだけ、いいけれど。
奥義を発動した時よりも体力が消耗している気がする。
このリスは、肉体より精神構造の方が耐久性がある造りになっているのだろうか。
世界の違う僕を受け入れて呼び寄せたくらいだ、かなり高い精神性…知能を持っていたのだろう。
僕の奥義初披露も霞んでしまうほど、高尚なリスだったに違いない。
だったら、オリジナルである僕は、まず借宿であるこのリスの能力を超えねば。
そして――
無反応のままでいる父の方を、ちらりと見た。