シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「僕がプログラムを作る時は、必要以上に0と1を使用したくない時さ。プログラムとは、電脳世界が人間に許し…人間が理解できる範囲での、電脳世界の力の使用許可証みたいなもの。最低限の0と1の消耗ですむ。逆に言えば、それ以上の力はありえない。
電脳世界が許可したもので、電脳世界と戦おうなんて無謀で滑稽だ」
「お前は使えるんだろう、電脳世界の力を!!」
「必要な分をわけて貰っているだけさ。電脳世界に感謝しながらね。人間が好き勝手に、電脳世界の力をどうこうできるなんて、自惚れもいいところさ」
父からの言葉はなかった。
「電脳世界を敵に回すリスクがどれほどのものか、僕はわかっているつもりさ。こんな程度ですんでいる、今はまだいい。だけどこれ以上電脳世界が刺激されて、本気で潰しにかかってくれば…こんなプログラム、役には立たないよ。象と蟻の戦いになる」
ただ、その目には、僕になにがわかるのかという怒りが感じられる。
もし、この塔が担う防御図を描いたのが僕の父だというのなら。
僕の言葉は屈辱的に思えるだろう。
「それくらい、リスでもわかる」
だから僕は笑ってやる。
低俗な、リスとして。
――お前は使えるんだろう、電脳世界の力を!!
故意的に、"息子"を認めたくないだけだということがわかったならば。
だったら僕は、リスでいい。
僕の父は死んでいるのだから。
僕の家族は、従弟の櫂だけしかいないんだから。
そう思うと少しだけ胸の奥がきしんだ音をたてたけれど、それを無視して僕は疑問をぶつける。
「いかに塔のガラスが特殊とはいえ、これだけ使用しても尽きない電気量があるのが不思議すぎる。それでなくとも電脳世界が敵となっているのなら、塔の内部の0と1も襲いかかってきてもいいはずだ。……だが、そうではなく……あくまで使う人間側に従順すぎる。
だが、塔の外部は明らかに敵意を持っているのだろう。電脳世界は統一された意思のはず。そこには個体がいないのに、どうして意思がわかれる?」
父の目に、僅かななにかが横切り、動揺したように揺れた。
やはり、あるのか。
塔で裏世界を守れるほどにまでできる、"隠し球"が。
表世界ではなく、裏世界に塔はある。
そしてそこに父が住み着いているのも、まだ必然なのか。
表世界ではできない"なにか"ゆえに、裏世界の軸を維持出来ている。
今、その軸がぶれそうだというのなら、その"なにか"が危険にさらされているということか。
そしてその"なにか"は、塔の外ではなく……内部にある。