シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「大きくなるほどうまいのかな……玲くん」
「そりゃあ百戦錬磨で、久遠同様"あの域"到達者だからね」
由香ちゃんは三日月目で、むふふと笑った。
「久遠もそうなの!?」
「今頃かいっ! 多分仲間内では、最高技術を持っているぞ? 経験は半端じゃないから」
更に由香ちゃんは、むふふふふと長く笑った。
……知らなかった。
久遠にマッサージの技術があったなんて。
「今度、久遠に教えて貰おうっと……」
玲くんにだけではなく、お疲れ様の皆に、せめて恍惚と"あの域"とやらに昇天できるようなマッサージを。
無力なあたしにできる、ひとときの癒やしの天国を。
「ぶほっ。なにを言ってるんだい、神崎! だめだめだめ! 師匠が許さない。師匠だけじゃなく、皆が許さないって!」
「え、あたし頑張るから! そうだ、由香ちゃんにもその成果を……」
「いらんいらん! ボクは百合もOKだけど、ROM専だから!」
ROM専っていう意味がわからなかったけれど、由香ちゃんに、皆を癒やすというこの案は速攻却下されてしまった。
「神崎。それより、映像!」
巨乳の忍者が、玲くんに背負った物体を見せていた。
物体――それは、あの胡散臭い関西弁もどきを使っていた情報屋。
上半身が裸なのは謎だったけれど、煌よりは落ちるとはいえ、肉体はすごく鍛えられていると思う。
そして、その背中に浮かび上がっているのは、幾何学模様のようなおかしな痣。
「黄の印……」
桜ちゃんが呟いた。
「やはり、五皇のひとり、緑皇なのか……」
同じ五皇の紅皇サンから、否定の言葉は返らない。
アホなのに。
どっからどうみてもアホな情報屋なのに。
あたし、あれよりはまともな人間だと思っていたのに。
蒼生ちゃんと、紅皇サンと並ぶ実力者。
蒼生ちゃんと……。
――あははははは~。
蒼生ちゃんといい、五皇はアホでもOKなんだろうか。
アホだらけの集団なんだろうか。
そう思い、ちらりと朱貴を見れば、彼はあたしの思っていることを悟っていたらしく、無言の目で叱られた。
彼は違うらしい。
「そうだよね、皆が崇拝する紅皇サンがアホだったら、救われないや……」
「神崎、なにぶちぶち言っているんだい。ふぅ、どうやら黄色い蝶の襲来に、突破口を見つけたようだね、安心した」
「え、突破口?」
「神崎ー。今、ずっと説明してただろう? ……聞いてなかったわけだね、彼らの会話以外に、そんなに気になることなんてないのに」
由香ちゃん曰く、夢路という女忍者…睦月の祖母が、裏世界に住む皆を安全な場所に案内しているようだ。
「だけど……なんでその安全な場所が、地下の魔方陣なのか」
桜ちゃんがぼそりとつぶやいた。