シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


魔方陣と聞けば、どうしても"約束の地(カナン)"を思い出すあたし。

あの魔方陣は、爆破から人を守るものというよりは、人が魔方陣を守った……脆(もろ)い印象が強い。


ひらひらの黄色い蝶が相手ならば、魔方陣は人を守ってくれるんだろうか。

守るという確証があるからこそ、移動しているわけだろうけれど、どうしてもあたしは懐疑的だ。

そんな中、映像を視ていた由香ちゃんが目を凝らして、前のめりになった。

玲くんがクマの肩から飛び降りて、キーボードの前に立ち、そこからすぐ見える備え付けのモニタのひとつを食い入るように見始めたから、なにが映っているのかと由香ちゃんも玲くん同様、玲くんの斜め後ろに立ってモニタを見ているらしい。

位置を変えれば見える映像の角度も変わって見えるのが、このリアル3D映像の凄さ。

あたしもモニタに映る映像は気にはなるんだけれど、それを見ている小リスの後ろ姿が可愛くて、こんな時だとは思うけれど和んでしまって、そして同時に僅かな疑問が……。


「師匠、どうして仁王立ちで尻尾ぱたぱたなんだろう。可愛いから別にいいんだけどさ」


モニタを見つめていたとばかり思っていた由香ちゃんも、実は同じだったらしい。

玲くんは普段、"俺様"の如く偉そうにふんぞり返る人ではないんだけれど、この小リスは妙に威張って、"小リス様"のように見える。

だけど、そこが可愛く思えるのは、リスだからなのか、玲くんだからなのか。


「由香ちゃん。尻尾って、簡単にぱたぱたできるものなのかな。動かそうとして動かす部位じゃないの? ゼンマイ仕掛けの人形のように、ぱったぱただよね、小リスの玲くん。団扇(うちわ)持たせたら、夏涼しそう。神崎家のボロ扇風機の代わりにできないかな」

「エコリスかい?」

「そうそう、地球にも精神にも優しいエコリス。後で節約の先生である玲くんに相談してみる。ねえ、由香ちゃん。ずっとぱたぱたということは、ずっとおしりをふりふりしているのかな。サンバのお姉さんみたいに」

「うーん。別に腰はくねくねしていないぞ、神崎。師匠を見ているとごく自然な、呼吸をしているかのような感じで、尻尾だけを動かしてる。うまいよなあ、そこんとこ。きっとリスが板についてきているんだよ、師匠は」

そんなあたし達の会話に、紫茉ちゃんと桜ちゃんも同調した。


「玲は本当に順応性があるよな。吸収性が抜群というのか。リスになっても凄い兄弟子だ」

「流石は玲様です」



「……リスは仁王立ちで尾を振ってばかりの生き物じゃないし、順応性があるのはお前達だ」



ぼそっと朱貴の声が聞こえて気がしたけれど、小声すぎて聞き返せば返答はない。

依然厳しい顔で、周涅に手を翳して治療している姿があるだけだ。

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