シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

『僕は櫂達に守られるためにここに来たわけではない。共に戦うためだ。共に戦いたいから、共に生き抜くために僕達は自分でできることをしようと、すべきことを分担した。

その彼らがここに来たというのなら、彼らのすべきことは進捗したということ。ここにこないといけない理由があったからだ。彼らは自己保身でここに来たわけではない』

小リスが切々と訴える。

『だけどさ、紫堂玲。ワンコ達だって危険を感じて避難してきたかもしれないじゃないか』


『彼らがこの世界を守ると言ったのなら、彼らはなにがなんでもここの世界をその住人を守ろうとするだろう。ここに来たのは、自己保身ではないことは僕が十分わかっている。この世界を脅かすものに対抗するために、この塔にきたんだ。だから僕もまた、その対抗手段を強めるために、ここに残る』



玲くんは――

櫂と煌を全面的に信じているんだ。



彼らの活躍を信じ、同時に彼らの期待を裏切らないように頑ななんだ。

だけど玲くんは忘れている。



『でもさ、でもさ! 紫堂櫂達が襲われたらどうするのさ! ワンコ達は黄色い蝶をなんとかできるの!? 表世界でも黄色い蝶が見えて対処出来るのは紫堂玲だけだったじゃないか!!』



煌は不思議な偃月刀があるにしろ、その煌も櫂も、黄色い蝶をその目で見る事すら出来ない。

黄色い蝶を見ることが出来るのは、玲くんだけだ。

まぁ、小リスの体だから100%ではないにしても。


『僕のこの姿では、仮に櫂の近くで櫂達を守ろうとしても、いつものように櫂に守られる。櫂達が今、本当に守らねばならないのは、僕じゃない。同じ目的を持った同志なら、個人で出来ることに尽力するまで。僕達は互いの力を信じ合っている。大丈夫。どんな困難でも僕達は切り抜けられる』


なんだか……じんときた。


玲くんの性格を思えば、絶対櫂達のところに行きたいはずなんだ。

自分の姿が守られるべき弱小のものになっても、それでも彼は精一杯櫂達を守ろうとするだろう。

そして彼は、どんな体でも……櫂達を守る力はあると思う。


それを拒んだ玲くんは――

信頼という絆に縋って、すべきことをしたいという意志を曲げない。


多分、そこまで言うのは、これから彼がしようとしていることが、多分裏世界救出のための一番の特効であると、玲くんは思っているのかもしれなかった。


『そんなことを言って! 万が一紫堂櫂達になにかあったら、傷つくのは意地を張ってる紫堂玲なんだぞ!』


だけど、やはりそれも――。

『なにも僕は、櫂達を見捨てているわけじゃないよ。黄色い蝶が誘われているのは"ここ"。魔方陣ではない。蝶が集まるところに、蝶が見える僕が囮になるのは適格だ。僕だってここからでも櫂達を守れるじゃないか』

『そ、そんなの危険すぎる! 自殺行為じゃないか!』

『僕は別に死ぬつもりはないよ。皆で生きるために、僕は最善を尽くしたいんだ』


愛らしい小リスは、とても男らしい顔で。

にっこり微笑む玲くんの姿とはまた違う凜々しさを兼ね添えている。

小猿くんはくっと唇を噛んで、口ごもってしまった。
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