シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そんな小猿くんの肩にぴょんと飛び乗り、その頬を手で触る……まるでなだめているようにも見える様子は、小猿くんの心配する心がわかるがゆえの、感謝の仕草のように思えて。
『僕の代わりに、櫂達を頼むね? 君だって、櫂達を守れる力があるんだから』
小猿くんの助力を自ら拒み、そして玲くんはお父さんを見る。
『黄色い蝶が"ここ"付近を中心に湧いた理由、知らないなんて言わせない。黄色い蝶はかつて僕の力で焦げた時、電子盤の模様を見せていた。即ち、電脳世界とも関係がある。
そうして今。電脳世界からの攻撃時、さらに虚数が増え続ける外界を遮断する、絶縁体で出来た硝子の塔の中、0と1だけを増産させてて裏世界を守だけの防御力を生み出したものが、"ここ"にはあるはずだ』
お父さんは……唇を震わせ、明かな動揺を見せていた。
『黄色い蝶が誘われているのは"ここ"。地下の魔方陣ではない。今、この塔の中にも虚数が増え続けているのは数値でもわかるはずだ。どうしても、0と1を増やさねばならない。そう……。隠匿する時間はない。逆に力を乞わねば』
そしてクマもまた、気まずそうな顔をして、コメカミを指でぽりぽり掻いている。
なにかを隠していることが、よくわかる反応だ。
「ここって……機械しかないよな。師匠は機械を死守するっていいたいんだろうか」
「いいえ、玲様の視線は機械ではなく、ひとつの壁を見ています。なにか部屋があるのかもしれません」
桜ちゃんに促されれば、確かに玲くんは一点を見つめているようだ。
玲くんは、力で感じているのだろうか。
だとすれば、玲くんの力が関係するものでもあるのだろうか。
『僕はここに残る。だから僕に構わず、全員早く地下に行け』
玲くんははっきりと言い切った。
ひとりでいいと。
蝶がいつ襲うかわからない中、彼はひとり残る決意を口にした。
孤高というより、それは慈愛に近いんだろうか。
役立たずは消えろというような投げやりさはない。
リスになっても玲くんはやはり玲くんで。
すべてを背負って危険に身を投じようとする。
あんな小さなリスが、黄色い蝶と電脳世界相手にどんな奮闘ができるというのだろう。
どんな奥義があったとして、ひとりだけというのはどう考えても無謀。
馬鹿なあたしでも、ひとりの残留は危険すぎることはよくわかる。
やがて口を開いたのは小猿くんだった。
『睦月。俺は紫堂玲と共に居る。今のところ、俺だって蝶を食い止めていられるし。だからそこのおっさん'Sを地下に連れていってよ』