シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
信頼 櫂Side
櫂Side
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嵐が過ぎ去った外界は暗い鈍色の空だったから、それを投影する硝子の壁の色は黒ずんで見えたのだとも思った。
……良い方に考えれば。
しかし、壁を触れられるほど近くで見て、嫌な予想は十中八九、当たっていたことを知る。
黒に赤の短線。
この硝子の塔は、"輝くトラペソヘドロン"化始めている。
色の濃度が一番の部分でも、"約束の地(カナン)"での塔のような100%の純度とは言いがたく、言わば塔の下から徐々に変貌中といったところか。
漆黒の塔に完全化していないだけが、まだ救い。
黄色い外套姿の久涅の呼び寄せを待たずして、緋狭さんに導かれるようにして、そんな硝子の塔に滑りこむように中に入ってきた俺達。
塔の上部を囲むようにして現われた空隙は、まるでこの世界に次々に入る皹のようにその数を増やしていた。
そこから出ているのだろうか、俺が見えない黄色い蝶が。
瘴気を撒き散らし、それはなにに狙いを定めて、どこに向かって飛んでいるのだろう。
――櫂、上だ上。蝶は最上階に向かってる! まだ硝子はぶち抜けねえみたいだが、塔の内部がどんな状態なのか気になる。亀裂が中にも出来てたら、玲の一大事。上に行こうぜ!
塔に入る前、偃月刀に亀裂を映して叫んだ煌が、慌てて俺の腕を掴んだ。俺も同意して、上に行こうとエレベータ場所に赴いたのだが、まず難問。
――櫂、お前……こけしが出したあの魔法のパネル、出せるか?
出せなかった。
夢路がやった方法を、模倣して試せるまでよく見ていなかった。
当然俺達は、一見行き止まりにも見える硝子戸の前で途方に暮れた。
硝子に見えるくせに偃月刀でも傷はつけられず、透き通っているのに、奥が見えない不透明さを持つそれは、ある意味……頑丈な"輝くトラペゾヘドロン"にも似て。
夢路がこの場所で扉を開いた方法が、俺にも煌にも出来ないということは、今ただの硝子として鎮座したままの硝子の壁は、塔の上下階の移動手段に出来ず。
見渡せど、階段などありそうもない。
――どうすりゃいいんだよ。どうすれば最上階に行けるんだよ……。ここには飛べる小猿も居ねえし……。
煌が頭を抱えて小さくしゃがみこんだ時、白い美ネコが俺と煌の間を割るようにして、悠々と歩いてきた。
――お前達はなにを勘違いしておる。私達が行くべきは地下だ。塔の内部から出現した黄色い蝶が上に向かっている間、今のうちに地下に。
緋狭さんの声でそう言い切った後、ネコはニャアアンと鳴いた。