シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


――はあああ!? 蝶が上に向かっているのなら、余計玲が危ねぇじゃないか! 玲はリスなんだぞ!?


――皇城の次男坊もついておる。


――サルとリスでなにができるよ!!!


――蝶をも視れぬイヌが行って、なにが出来るというのだ。仮にお前が偃月刀という道具があるにしても、お前は、蝶が見え対抗出来るようになったサル以下、さらにそのサルもリス以下だ。


――なんだよ……。イヌもサルも、リスに劣る動物じゃねぇよ!


煌の涙声。そこがポイントではないと突っ込みたい気分ではあったが。


――この世界の生態系のピラミッドの頂点にいるのはリスだ。それがわからぬお前は、底辺にいるただの駄犬。ほら、行くぞ、最弱のイヌ。


――……チビが……頂点……。俺……底辺……。


僅か数分で、ネコの師は、獰猛な(はずの)イヌの弟子の反意を簡単に受け流した。


緋狭さんがこう強行的に言い切る時は、必然事項なのだ。


緋狭さんは玲を見捨てているのではない。

むしろ見捨てられる緋狭さんではない。


玲を信じているからこそ、俺達をあえて別のものに誘導しようとしている。

それを許容するかしないかは、俺達の中での玲への信頼度にかかる。


目で見える、あの小さな身体を信じるのか。

目で見えない、玲という男の活躍を信じるのか。


だったら俺達は――

玲を信じるしかないじゃないか。


どんなに心配でも。

俺は煌と、苦渋な顔で緋狭さんに従うしかなかった。



――お前達、そう悲観的になるな。玲は最強リスだ。


最強リスの肩書きを玲に与えた緋狭さんは、"ニャッニャッニャ"としてしか聞こえない朗とした笑い声を響かせる。


最強リス……。


しかしその玲ですら、きっと緋狭さんには敵うまい。



………。



――坊。なにか言いたげだな。


言えるわけがない。


イヌ<サル<リス<ネコ


俺は一体どこに位置するのかと。

俺も話題に混ぜて欲しいなど。


しかし無言を貫いても看破してしまうのが緋狭さんで、なんとも愉快そうに赤い猫目を細めた。


――坊も獣になってみるか。中々よいぞ、のびのびして。

――"も"って、なんだよ、"も"って!! 俺は玲や小猿のように獣じゃねぇぞ!!


翠は猿ではないんだけれど……。

それでも感じてしまう、俺の中のちっぽけな疎外感と寂寥感。


――地下なら地下でもいいけど、どうやって行くんだよ?


煌が現実に返す。


そうだ、エレベータを開ける方法がわからないのなら、どうやって地下に?

すると美ネコは、ふふんと得意げに鼻をひくつかせた。


――私を誰と思っている。

――ええええ!? 緋狭姉、エレベータ動かせるのか!?


あぁ、芹霞の父親が裏世界出だというのなら、緋狭さんもこの世界に通じているはずで。

どんな姿になっても、頼れるのは……俺達が心から敬う紅皇。



……やはり、ネコでも最強らしい。

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