シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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地下に到着したエレベータの扉が開き、まず目に入ったのは……黒い岩のような石扉。


俺の記憶を刺激するものに迎えられ、予想していなかった俺の鼓動はどくんと一度脈打った。


石に刻まれているのは、不可解な幾何学模様であるが、俺は過去何度も目にしてきた。


「うわ……"約束の地(カナン)"であった、闇の力で開くあの扉かよ。なんでここにあるんだよ」


煌が、露骨に嫌な顔をしてぼやく。


「まぁ……嫌な思い出しかなかったわけじゃねえけどよ。あれがなければ、俺は芹霞に……」


煌が真っ赤な顔でなにやらもにょもにょ呟き、前傾姿勢で両手人差し指をつんつん始めたところに、ふさふさネコの回し蹴りが、その首に綺麗に連続三発決まる。


「気色悪い」



緋狭さんが人間でもネコでも、その威力はいつものこと。そしていつものことながら、煌はかなり吹っ飛んだにもかかわらず、低く呻いて首をさすっただけで回復する。


そして美しい顔のネコに促されるように、俺は4の字を指で作った手印を石扉にかざす。


「"力を与えよ"」


俺の声に反応したように、ゴゴゴ……音を立てて扉が開けば、緋狭さんが呟く。


「私が出来ぬことを、いとも簡単にしおって」

「そうだそうだ。俺、腰砕けになるほど大変だったのに……」

「……。お前も出来たと思うと、腹立たしいわ!」

「っ!!? 顔をひっかくな! それでなくともひでぇ顔が、さらにひどくなったらどうするんだよ!!」


……俺から言わせて貰えば、煌は少し傷を作って、美貌を翳らせてもいいと思う。


自らの美貌を知らぬは、本人ばかり。

駄犬を連発する緋狭さんですら、煌のことを醜いと表現したことがないのに、煌は八年も気づいておらず、本当に煌の美意識を覗いて見たい。

そして暗い通路を歩き、再び石扉を開けば――。



「ここが終着だ」



それは――

透明な硝子の床板に眠る大きな魔方陣がある空間だった。


広さは上階の宴会場の倍以上、ワンフロアになっているのかもしれない。


裸の電球を飾ったかのような、黄色い薄明かり。

それも不安定で、バチバチと音をさせて点滅している。


そこに足を踏み入れた途端、俺も煌も思わず短い声を漏らして、眉間に皺を寄せてしまった。


肌で感じる、膨大な瘴気がそこには渦巻いていたからだ。


その瘴気が外から感じられなかったのは、その空間の硝子の床以外を覆い尽くす異質な素材のせいかもしれない。


漆黒色に真紅の線。

即ち、"輝くトラペゾヘドロン"。


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