シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「記憶が朧気だから…いつだったか何処だったか曖昧だけれど…こんな不審この上ないわさわさクマなんて、他にいるはずもないだろうし…。だけどどっかでこのわさわさ…見た気がするんだよな…。でも基本俺、鎌倉の家から出たことないし、家出たのは兄上が変貌した後。外で見たなら、この1.2ヶ月ってトコだろうけど…」
小猿は腕組をしながら、眉間にきっかりと皺を刻んで考え込んでいる。
猿の熟考だ。
「おう、皇城の次男坊。俺の前職はテレビ局の報道だったから、怪しげな場所ならよく出没してたぞ? 皇城に張ってたこともあるし、忍び込んで隠し撮りしようとして黒服の警備員(ガードマン)みたいのに連れ出されたこともあるし、脅されたのも1度や2度じゃないからな。マスコミの基本精神は、怪しいものはとことん追及せよ、だからな。がはははは」
別に隠し立てすることなく、さらりとスートーカークマは言いのけた。
「何で皇城が"怪しげな家"なんだよ!!」
対して小猿は、顔を真っ赤にさせてキーキー叫ぶ。
「表は政界・財界・経済界…あらゆる界で影響力があるのに、裏では怪しげな陰陽道。叩けば埃が出るような際どい歴史があるくせに、実際叩いてみても塵1つ出てこないし、叩けないように先回りされてたり。
ここまで徹底的な隠蔽工作が成されているのなら、何かやばいものを隠していますってことじゃないか。
俺としては、隠された処に何があるか…スクープしたい処でな。表彰とれればローン返済も少し楽になるし。まあ…努力が実ったことはなく全敗、惨敗で色々な局に左遷されたがな。まあ今となればいい思い出だ、がはははは!!!」
あまりに開けっぴろげな豪快さは、小猿の警戒心を薄れさせたようだ。
隠されれば隠されるほど怪しく思うけれど、隠されなければ…疑惑は晴れていくものなのか。
「…マスコミが前職なら…今の仕事は何なんだよ? 機械関係?」
俺の背中に隠れていた引き籠り小猿が、ちょっと進化して俺の前に出て…それでも警戒距離を保ったままでクマにそう聞けば、
「無職(ニート)」
そう答えて、クマは項垂れた。
その落胆と悲哀ぶりに、小猿も些(いささ)か同情してしまったらしく、警戒距離を取り払って、クマの肩を手で叩いて励まし始めた。
「元気だせ、クマ!!! …人生…じゃなく、クマ生、水戸黄門さ!!!」
水戸黄門?
「……人生、楽あれば苦もあるさ…と言いたいんだろう。これは…主題歌であり、水戸黄門は関係ないがな」
突如耳に届いたのは、深みある玲瓏な声。
俺達が地下から上がってきた穴から、櫂が遅れて地上にやってきた。
そして長い二の足で、しっかりと地面を踏みしめて。
「ああ――
本当に此処は…外界なんだな」
櫂は、目映い太陽の光に目を細めた。